論文賞
ニッケル触媒上でのメタン分解反応における触媒担体と反応ガスの影響
(所属は論文発表時のものです)
メタンは,天然ガス,炭層メタン,メタンハイドレート等として多量に存在することが知られているが,メタンから二酸化炭素を生成させることなくクリーンな燃料である水素を製造する触媒の開発は,地球温暖化の視点から極めて重要である。
本論文は,ニッケル触媒によるメタンの炭素および水素への分解反応において,著者らが以前より研究・開発を行ってきたグリコサーマル法により合成したジルコニアを担体として用いた場合,他の様々な担体と比較して,顕著に高い触媒活性を示すことを見出している。ここで生成した炭素は,グラファイト層が炭素繊維の成長方向に平行なカーボンナノチューブ(CNT)であることも明らかにしている。すなわち,触媒寿命や調製したジルコニアの本質的な役割などに対する未解明な課題は残るものの,ち密で系統的な実験と深い考察によって触媒開発に関する重要な知見を得ている。
著者らは,メタン分解反応の温度が680℃以下では,反応速度が温度上昇とともに増加するのに対して,それ以上では急激に低下することを示した。一方,高温で成長したCNTほど結晶性がよいことをラマン分光法により示した。さらに,これまで様々な研究においても本反応の問題点と指摘されている触媒の失活についても検討を加えている。純メタンの反応では,ある時間CNTの成長が起こった後に,CNT生成速度がゼロになるという失活挙動を示すのに対して,メタンに水素を共存させた場合,急激な失活が観測されなくなり,CNT収量が顕著に増加することを見出した。ガスの種類を反応途中で切り替えるユニークな実験も行っている。たとえば,メタンから水素に切り替えた場合はメタン分解反応の触媒活性は維持される。一方,メタンからアルゴンに変えるとメタン分解反応の触媒活性が消失する。これは,ニッケル粒子内部に溶解していた炭素がメタン分解反応に活性なニッケル表面に逆拡散してグラファイト層を形成したためであると触媒の活性失活機構について考察している。
以上の通り,本論文は,メタンから水素とCNTとを製造する高性能触媒の開発に重要な指針を与えているものと言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。
[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 48, (5), 301(2005).(現在)
+1)新日本石油(株)
+2)(株)資生堂
+3)ソニー(株)
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