学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

ゼオライト触媒およびメソポーラス物質の新規合成法に関する研究

辰巳 敬殿(東京工業大学 資源化学研究所 教授)

 辰巳氏は,これまで一貫して,ゼオライトを触媒とする石油化学に関連する各種の反応について,触媒活性・選択性の向上,触媒の調製,改良に関する研究に取り組み多大な成果を挙げている。研究対象とした反応には,ベックマン転位,アルケンの水和,ヘキサンの芳香族化,水素化脱硫などがある。なかでも特筆すべき成果は,チタノシリケートによるH2O2酸化反応ならびに多孔性物質の新規な合成法の開発にある。

 MFI構造のチタノシリケートがフェノール,アルケンなどのH2O2酸化に有効であることは既に知られていた。辰巳氏は,Ti-MFIがヘキサンなどのアルカンの酸化にも活性を有することを明らかにした。さらに,Ti-ベータ,Ti-MCM-22,Ti-MCM-41,Ti-MCM-48など,Ti-MFIに比べて,細孔径の大きなTi含有多孔体を新規に合成し,これらの物質がシクロヘキサンなどのかさ高い分子のH2O2酸化に高活性を示すことを実証した。また,シリル化処理により反応場の疎水性を増加させることにより活性と選択性が大幅に上昇すること,固相法で新規に合成したTi-ベータが水熱合成により合成したTi-ベータに比べ疎水性が高いこと,Ti-MWWがアルケンの酸化においてトランス体に特異な反応性を示すことなどを見出している。さらに,層構造から3次元構造への転換を経由する手法を用いて,最終的にBを含まないTi-MWWの合成法などを確立している。各種のTi含有多孔体の合成に用いられた新規な手法は,各種の金属含有多孔体の合成にも広く適用できる可能性があり,新規多孔体の合成化学に大きな進展を与えたものと言える。

 辰巳氏はまた,上記のほか,ゼオライトやメソポーラス物質の合成法の研究においても顕著な成果を挙げている。ゼオライト合成では,骨格にメチレン基をもつMFIやLTA構造をもつ新規な有機−無機構造体を合成している。また,メソポーラス物質については,対アニオン,温度,添加剤などの因子が生成物の構造,形態に大きな影響を与えることを詳細に検討して,メソ構造体の生成メカニズムを明らかにした。また,従来法とは逆に,アニオン性界面活性剤ミセルを鋳型として,カチオンとなるアミノ基を官能基としてもつシランを組み合わせる合成法を構築し,多数の新規なメソ多孔体を合成している。この方法で,キラルなアミノ酸系の界面活性剤を用いることにより,キラルなメソ細孔を持つらせん状の物質が合成できることを発見している。新規性の高い合成法が特異で極めて新規な物質に導いたものと言える。無機合成化学として価値が高い成果であるとともに,キラルな多孔体としてキラルな物質の合成や吸着分離への展開が期待される。

 以上に述べたように,辰巳氏は,触媒反応と新規多孔体の合成を緊密に連携させつつ優れた成果を挙げている。また,今後の大きな展開と波及効果が期待される新規な合成手法を確立させている。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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