野口記念奨励賞
アスファルテンの分子・凝集構造の解析に基づいた重質油の反応性制御に関する研究
田中 隆三殿(出光興産(株)研究開発部 中央研究所 研究員)
石油産業を取り巻く環境が変化する中で,重質油の処理技術の改善が石油業界共通の極めて重要な課題となっている。田中氏は,種々の分析手法を駆使することで,重質油の凝集構造やその変化挙動を詳細に解析し,これらの基礎的研究成果を基に重質油改質反応について検討を行い,コーク生成の抑制などの改善方法について実用的にも有益な提案をした。
具体的には,熱分解や水素化処理などの重質油改質反応においてコーキングや触媒劣化を引き起こす主要な原因物質と考えられているアスファルテンを取り上げ,小角中性子散乱(SANS),小角X線散乱(SAXS),レーザー脱離質量分析(LD-MS),水平型X線回折(XRD)などの装置を用いて,アスファルテンの分子構造や一次,二次凝集構造を詳細に解析した。その過程で,測定セルの改良,分析条件の最適化,データの解析方法の詳細な検討を行った。その結果,アスファルテンの分子は高温まで安定な数枚の芳香族シートの積層を中心とした凝集構造を有しており,低温ではそれらが二次凝集してより大きい凝集構造を有しているモデルを提案した。このモデルは,温度,油種,溶媒の添加が凝集構造の変化に及ぼす影響について統一的に説明できることを示した。
さらに,化学反応が始まる350℃の高温でも数ナノメートル程度の一次凝集体が一部存在するという知見を踏まえ,オートクレーブを用いた反応によって,凝集挙動とコーク化反応性との間に相関があることを確認し,凝集構造を緩和させる加熱撹拌や溶媒処理による前処理が重質油改質反応の改善に有効であることを明らかにした。
このように,田中氏は,幅広い分析手法を駆使することで従来ほとんど知見が得られていない重質油の凝集構造とその変化挙動について詳細に解析し,得られた基礎的知見に基づいてコーク生成を抑制する重質油改質反応の改良方法を提案した。こうした業績は,今後,実用的な技術開発へのさらなる寄与が期待でき,産業界に大きく貢献しうるものと判断できる。
よって,本研究業績は本会野口記念賞表彰規程第2条2項に該当するものと認められる。
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