学会賞(表彰規程第3条2項に該当するもの)[工業的]

新規ホスファゼン触媒の開発と高品位ポリ(オキシアルキレン)ポリオール合成の工業化

昇  忠仁殿(三井化学(株)マテリアルサイエンス研究所 研究主幹)
船木 克彦殿(三井化学(株)機能材料研究所 主席研究員)
佐伯 卓哉殿(三井武田ケミカル(株)研究所 主席研究員)
山崎  聡殿(三井武田ケミカル(株)研究所 主席研究員)
大久保和彦殿(三井武田ケミカル(株)研究所 室長)

 ポリウレタンは,ポリ(オキシアルキレン)ポリオールとポリイソシアネートの重付加反応によって製造され,産業上,広範に利用されている。原料となるポリオールは従来の製法では純度が低く,近年需要が多い快適性,耐久性,軽量化などが高度に要求される車両用シート向けポリウレタンには使用できなかった。昇氏らは高純度ポリオールの製造を目標として,従来触媒の弱点を克服した理想的なアニオン重合触媒を創出するとともに触媒製造技術,重合工程における巧妙なプロセス化技術を開発し,高品質な車両用シート向けポリウレタンの製造に適する高品位ポリオール合成の工業化に成功した。

 当該工業化を可能にした主要な技術は,次の3点にある。
(1)独創的で高度な分子設計に基づいた新規ホスファゼン触媒の開発
(2)ホスファゼン触媒製造技術の開発
(3)ポリオール製造における重合反応の設計と新規固体酸触媒による脱触媒技術の開発

 従来のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートなどの塩基性触媒や,複合金属錯体では克服できないモノオールの副生や生成高分子の分子量分布の問題点を解決するために,エポキシ化合物の重合過程における触媒の作用機構を詳細に検討し,触媒設計の指針を,金属元素を含まず,カチオン種が巨大分子サイズを有し,またカチオン電荷が安定に非局在化し,できれば単一な活性点を持つ化合物の創出と定めた。条件に合致する化合物として,当時珍しかったホスファゼンベースの触媒系に到達し,種々の骨格構造の中で,高性能を示す特定の構造を持つホスファゼンを見出した。

 ホスファゼン触媒の製造過程では,副生物の選択除去技術の開発も含め,安価な原料から,環境負荷物質を排出せず,高純度の触媒を製造する技術を確立した。

 ポリオール製造の重合過程では,新規固体酸を用いる脱触媒技術の開発も含め,溶媒を用いないクリーンな製造プロセスを完成させた。

 このように,主要な三つの技術をいずれも新規に独自開発し,高品位ポリオール合成の工業化という形に結実させた。得られるポリオールは自動車用シートクッション原料として独占的に使用され,市場から高い評価を受けており高性能ポリオール向け100%のシェアを占める。また,本ホスファゼン触媒の開発は産業上多方面への応用が期待される一方で,従来触媒では生かしきれなかったアニオンの触媒能力を上手に引き出し理想的な反応制御を可能にし,学術上,先導的で極めて意義のある顕著な業績である。

 よって,本業績は本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。

 

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