野口記念賞

二酸化炭素を利用する天然ガス改質とFT合成技術の開発

(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構殿,石油資源開発(株)殿,
千代田化工建設(株)殿,コスモ石油(株)殿,新日本製鐵(株)殿,国際石油開発(株)殿

 天然ガスから合成ガスを経てFT合成によって液体燃料に変換するGTL技術は,硫黄や芳香族フリーのクリーン燃料の製造技術として注目されている。従来のGTL技術は巨大ガス田産出天然ガスを主対象としているが,エネルギーセキュリティーの観点から,東南アジアを始め世界中のガス田の大部分を占める中小ガス田から産出される炭酸ガス含有天然ガスに対応可能な我が国発のGTL技術が求められている。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構らは,天然ガス,スチームと炭酸ガスを原料とした合成ガス製造触媒およびスラリー床用FT合成触媒として,それぞれ貴金属系と非貴金属系の2種類を開発し,苫小牧・勇払ガス田の天然ガスを用いたパイロットプラント実証試験で触媒性能を確認するとともに,国産技術として初めて世界最高水準の合成ガスからのFT合成油の製造に成功した。

 本技術では,改質の面でエネルギー効率が高いにもかかわらず炭素析出が平衡上避けられないメタン:炭酸ガス:水蒸気=1.0:0.38:0.85の組成の原料ガスから,水素分離などの成分調整なしにH2/CO比=2の合成ガスを安定して製造可能な耐炭素析出性に優れた貴金属系と非貴金属系の2種類の触媒を開発した。H2OとCO2の解離吸着特性や炭素析出前駆体の酸化除去特性等を担持金属と担体との組合せにより制御し,炭素析出の課題克服に成功した。本改質技術は外熱式反応方式のため,高価な空気分離装置が不要になること,炭酸ガス濃度が高い劣質な天然ガス田やLNGプラントから排出されている炭酸ガスの有効利用ができることなどの利点がある。一方,FT合成触媒に関しては,担体の物性,助触媒の添加,および調製方法などを工夫することにより,H2/CO比=2の合成ガスから液状炭化水素を生産可能な耐摩耗性に優れた貴金属系と非貴金属系の2種類のスラリー床用触媒を開発した。

 さらに,開発技術の実証用パイロットプラントを勇払に建設し,貴金属系合成ガス製造触媒については5000時間以上の安定な性能を確認し,非貴金属系FT合成触媒については合成油製造能力として1300 g/kg-cat・hを超える世界最高水準の性能を達成するとともに,プラントの最大製造能力である7 BPDの液体燃料の製造に成功した。パイロット運転によって製造されたFT合成油の一部をセタン価70以上の軽油に転換し,車両排出ガス試験に供してクリーン燃料特性を確認した。また,装置面では,炭素が析出し易いガス組成の合成ガスをリフォーマー出口で急速に冷却する熱交換器を採用することによって,後続工程における炭素析出を抑制することに成功した。

 本技術は,中小ガス田に見られるCO2を高濃度(20〜50%)に含む天然ガス原料あるいはCO2を分離するLNGプラントが隣接する場合には排出CO2の原料化が可能になること,高価な酸素分離装置が不要となるために従来技術に比べて製造コストの低減につながること,またLCA等により本技術が従来技術に比べCO2排出量の削減になることを検証したこと,さらに国内初の技術をパイロットプラントで実証したこと等は,新たなFT合成油製造法の道を切り開いたものとして高く評価できる。本技術の成果が,後継の数百BPD規模の実証化研究へと発展していることも特筆すべきことである。よって,本技術は,本会野口記念賞表彰規程第2条1項に該当するものと認められる。

 

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