技術進歩賞

石油タンク浮屋根のスロッシングシミュレーションによる構造設計技術の開発

三浦 正博殿(出光エンジニアリング(株)技術部 主任部員)
菊池 務殿(出光興産(株)工務部 グループ長兼主任部員)

 三浦氏らの技術開発は,石油タンク浮屋根の地震時スロッシングによる損傷のメカニズムを数値シミュレーションにより解明するとともに,浮屋根の応力算定法を提案し,危険物タンクの構造設計基準に採用されたものである。

 本技術は,平成15年9月の十勝沖地震による苫小牧地区のタンク浮屋根の損傷事故以降,原因究明のためになされた多くのシミュレーション解析をまとめ,平成16年12月の石油学会装置研究討論会に発表された論文,および出光技報47巻3号(平成16年),同48巻3号(平成17年)に示されている。また,その成果は平成16年9月の危険物保安技術協会「屋外タンク貯蔵所浮屋根審査基準検討会」報告書や平成17年1月の「危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令等の施行について」(以下,改正施行通知)に引用されている。

 浮屋根のスロッシングによる損傷原因として,従来から一次モード(円周方向面外曲げ)について触れた報告はあったが,浮屋根の二次モード(楕円状変形に伴う水平面内曲げ,および円周方向圧縮:10万klクラスのシングルデッキ型に関する検討)による変形・破壊に対して解明したのは,本開発が初めてであり,新規性・進歩性がある。また,一次モードに対する検討についても,定量的かつ一般化した評価方法を提案しており,先行技術よりも優れている。

 特に,はり理論による応力算定式・強度評価方法につなげるため,多くのタンクの浮屋根と貯蔵液の連成モデルでのシミュレーションの変位情報を基に,スロッシング高さと浮屋根変形量との関係を導いたことは,耐震性評価技術の向上に大きく寄与する。平成17年4月から施行された「改正施行通知」により,シングルデッキ型浮屋根の耐震性評価に本技術が活用され,対象となる大型石油タンクは数百基におよび,今後耐震性向上対策の分野で本技術の適用が大いに期待され,波及効果は大きく,本技術の有用性が認められる。

 また,浮屋根のスロッシングシミュレーションは自由度の大きい解析モデルで高速計算機により数十時間かかる膨大な計算であり,シミュレーションのケーススタディー結果をまとめ,簡易計算式を導いたことにより,多大な労力と計算費用を大幅に削減することが期待でき,経済効果も大きい。

 以上の点から,本技術開発は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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