技術進歩賞

石油だき業務用小型ボイラーの低NOx バーナー技術開発

村川 喬殿((財)石油産業活性化センター 石油基盤技術研究所 主任研究員)

 村川氏は,業務用小型石油だきボイラーにおいて,灯油燃焼時NOx 30 ppm以下,CO 100 ppm以下,A重油燃焼時NOx 50 ppm以下,CO 100 ppm以下の排出ガス特性を実現する低NOx バーナーを開発した。

 我が国の都市,特に大都市部の大気中NOx 濃度は,ディーゼル車などの移動発生源に対する厳しい規制にもかかわらず改善は進んでおらず,局所的な影響の大きい小型ボイラーなどからの排出削減が強く求められている。そのため,各種小型燃焼機器に対する規制は次第に強化されてきており,液体燃料について環境省NOx 排出ガイドライン(燃焼量50 L/h未満で80 ppm)や東京都NOx 排出指導基準値(燃焼量100 L/h以上で60 ppm,燃焼量100 L/h未満で80 ppm)が新設ボイラーについて設定されている。石油だき燃焼器は,燃料の蒸発に必要な時間を確保しなければならないなど,ガスだき燃焼器に比べて設計上の制約が大きい。また,燃料種によっては燃料中の窒素化合物に起因するNOx 生成がプラスされることもあり,ガスだき燃焼器同等の低NOx 特性を達成することは難しいと考えられてきた。実際,これまで石油だきボイラーで上記規制を満足する排出レベルの製品は市場にはほとんど存在しなかった。

 当該技術開発では,8個程度に分割配置された二次空気ノズル先端部に5〜30°程度の傾斜角を付けることにより,燃焼用二次空気と未燃の油噴霧粒子との混合を促進し,同時に燃焼排ガスが燃焼場に循環して未燃油噴霧粒子の蒸発を促進する構造とすることにより排ガス自己再循環と分割火炎を実現している。また,一次空気供給口の開口面積を最適化することで二段燃焼効果も得ている。その結果,灯油だき1000 kg/hボイラーで35 ppm,A重油だきで55 ppm(いずれもO2=0%)という優れた排出特性を実現している。大型燃焼装置では排ガス再循環(EGR)燃焼,水噴霧,蒸気噴霧などの技術が多く採用されているが,小型装置にこれら技術を用いると装置の複雑化,効率低下につながるので,本装置ではこれら技術を用いずガスだきに匹敵する優れた性能を達成した。本開発で採用されたNOx 低減技術は,いずれも従来から知られた方法ではあるが,試作と試運転を丁寧に積み重ねて最適化を行い,確実に低NOx 特性を実現したことは高く評価できる。また,既に民間企業((株)サムソン,香川県)により低NOx ボイラーとして換算蒸発量1000〜2000 kg/hのものが製品化され,2004年1月より販売開始されているなど,普及実績も積んでいる。

 加えて,この種の燃焼装置では,規制自体が技術的な可能性を考慮しつつ設定されて行く傾向があるので,本開発により達成された性能は今後の規制動向にも影響を与えると考えられ,我が国の大気環境の改善に直接,間接に貢献するものと期待される。

 よって,村川氏による石油だき業務用小型ボイラーの低NOx バーナー技術開発は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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