技術進歩賞
ブタジエン法1,4-ブタンジオール/テトラヒドロフラン製造プロセスの革新
三菱化学株式会社殿
本技術は,昭和61年度石油学会賞受賞技術であるブタジエン法1,4‐ブタンジオール(1,4BG)/テトラヒドロフラン(THF)製造法に対して挑戦的な革新技術を採用し,プロセスの飛躍的な改良を行ったものである。
1,4BGはPBTや各種ウレタン原料として,THFは弾性繊維や人口皮革に用いられるポリテトラメチレングリコールの原料や高性能溶剤として重要であり,中国を中心とするアジアで大きな需要の伸びが予想されている。三菱化学(株)は,ブタジエンを出発原料とした1,4BG/THF独自製造技術の開発を行い1982年に工業化に成功した。その後,2系列のプラント建設や,BASF,南亜プラスチックへ技術ライセンスを行うなど,工業的製造法として確固たる地位を築き上げている。
本プロセスは,ブタジエンを原料とし,アセトキシ化,水素化,加水分解・THFへの環化の三つの反応工程より成り立っている。ここでアセトキシ化工程は高圧反応であること,加水分解工程はエネルギー多消費型プロセスになっていることから,この両工程の技術改善はコスト削減効果が大きい。これらの点から,本技術はアセトキシ化および加水分解についてプロセス改良を行ったものである。
従来のアセトキシ化反応では,ブタジエン,酢酸,空気を反応器上部から供給するトリクルベッド方式を採用していた。この方式では酸素濃度を爆発下限界以下に制御し,かつ反応に必要な酸素分圧を確保するため,9 MPaの高圧が必要であった。本技術は反応器形式に適した触媒の開発や触媒層中で触媒が動かないようにする充填方法,ガス分散方法等を詳細に検討した。この結果,これまで酸化反応器では工業化実績のない液相固定床に下部より直接空気をフィードするアップフロー形式を開発し,世界で初めて工業化プロセスに採用した。これにより反応器内の連続相が液相となり,液中にガスを微細気泡として供給することで爆発を回避しながら高酸素濃度のガスの供給が可能となり,反応圧を6 MPaまで低圧化できた。また,ガス循環用コンプレッサーが不要となり建設費・電力が削減された。固定床アップフロー方式は,固体触媒を用いた他の酸化反応への応用展開も期待できる。
加水分解工程では,反応平衡が生成側に不利であることから,従来,1,4BGの収率を上げるために大量の水を供給していた。そのため未反応水の蒸留回収・リサイクルに多大なエネルギーを要していた。そこで,本技術では水の代わりに反応中間体である1‐アセトキシ‐4‐ヒドロキシブタンをリサイクル利用した。これにより加水分解反応器が3器から2器へ減少でき,水供給量の削減も可能となり,エネルギー消費量が約30%削減できた。
以上の点から,三菱化学(株)が開発した当該技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。
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