奨励賞(旭化成ケミカルズ賞)

コンビナトリアル計算化学システムの開発とその触媒設計への応用

久保 百司殿(東北大学大学院工学研究科 助教授)

 久保氏が,その研究の初期において,分子軌道法のみでは複雑で大きな系である固体触媒と材料開発の分野を扱うことはできないと判断したことは,当を得ている。 そして電子構造の計算を待たなくてもクーロン相互作用と立体反発で説明がつくと思われる多くの現象に対して,経験的分子動力学法を応用して取り組んだことは, 同氏のオリジナリティーであり,実際に,分子動力学法やモンテカルロ法をこれらの研究に導入した第一人者として評価される。

 また,次の段階として,量子論すなわち電子構造の知見が必要ではあるが,系全体を扱うことができない場合のアプローチとして, たとえばゼオライトのケージ全体を分子動力学法で扱って,可能な反応サイトを大まかにスクリーニングを行い,その局所構造を小クラスターとして切り出し, そのクラスターモデルに対して密度汎関数法計算を行うという手法も,久保氏が発展させたものである。

 久保氏は,可能性のある多くの系について,そのすべてを迅速に計算する必要性を主張し,そのための簡便な計算方法を提案した。 この方法論の整合性や理論的な厳密性,また多種多様な系に適用した場合の信頼性と有用性といった問題は,今後,時間をかけて評価されるべきであるが, 今まで手がけられていなかった複雑な問題へ挑戦してきたというチャレンジ精神と,現時点までに多くの結果を論文として絶えず発表しているという研究者としてのアクティビティーは, 本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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