野口記念奨励賞

水素化分解用Y型ゼオライト触媒のメソ孔による機能向上に関する研究

佐藤 剛一殿(産業技術総合研究所 メンブレン化学研究ラボ 研究員)

 石油製品の白油化指向の中,とりわけ燃費の良いディーゼルエンジンの燃料である軽油を重質油から選択性よく製造する触媒が強く求められている。佐藤氏は,従来から適用が極めて困難と言われてきたゼオライトを重質油の水素化分解用触媒材料として選び,そのメソ孔構造が重質油分解に果たす役割について詳細な検討を行い,以下の研究成果を得た。

(1) ジフェニルメタンおよびテトラリンの水素化分解反応を行い,テトラリンの分解にはUSYなど強い酸点を持つゼオライト担体が必要であることを明らかにした。
(2) テトラリンをモデル原料に芳香環とナフテン環の共存下における反応機構を詳細に検討し,ゼオライト酸点で生成した開環カチオン中間体が重縮合してコーク生成,触媒劣化につながること,およびこの現象が酸点への解離水素の供給不足に起因することを明らかにした。
(3) メソ孔構造のみが異なるHY型ゼオライトを調製して,分子径の異なるモデル反応物質を用いてメソ孔の役割について検討し,重質油中に含まれるような大きな分子径物質の分解にはメソ孔が不可欠であることを明らかにした。
(4) Mo担持HYゼオライト触媒において,メソ孔を有するゼオライトではメソ孔内部にMoが比較的高い分散度で担持されるが,メソ孔に乏しいゼオライトでは粒子外表面にMoが凝集することを明らかにした。また,これらの触媒を常圧残油の水素化分解反応に適用するとメソ孔を有するゼオライト触媒は高い分解活性を示すが,メソ孔に乏しいゼオライト触媒では生成物が重質化することも明らかにした。そして,これらの結果から,高性能水素化分解触媒の設計においては,メソ孔構造とメソ孔内部表面におけるMo粒子の分散状態の適切な制御が重要であることを明確にした。

 このように,佐藤氏は極めて実用性の高い研究テーマを取り上げ,モデル反応による検討,分光学的検討,実油を用いた高圧水素化分解反応による検討など多様な研究手法を駆使してその反応機構を明らかにし,より実践的かつ系統的な触媒設計指針の確立を可能とした。

 以上の佐藤氏の研究成果は,学術的のみならず実用的にも高く評価されるものであり,本会野口記念賞表彰規程第2条2項に該当するものと認められる。

 
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