学会賞(表彰規程第3条2項に該当するもの)(工業的) 

新規ジフェニルカーボネート製造プロセスの開発と工業化

三菱化学株式会社殿

 本件は,溶融法のポリカーボネート樹脂(以下,PCと略す)原料となるジフェニルカーボネート(以下,DPCと略す)製造の新規なプロセス開発と工業化にかかわるものである。PCは利用分野も広く世界で年間200万トン以上生産されている大型商品であり,今後も高品質が要求される市場の伸びに支えられ10%を越える伸長率が期待されている。PC製造の溶融法は,重合後の精製や乾燥などの複雑な工程が簡素化できコスト低減のポテンシャルが高い製造法であるが,高温での長時間反応を伴うため原料のDPC製造においては重縮合の厳しいスペックに適合できる品質を経済的に確保することが大きな課題であった。

 現在,DPCはジメチルカーボネートとフェノールからのエステル交換反応,あるいはホスゲンとフェノールを原料とし副生する塩酸をNaOHで捕そくする方法で製造されているが,後者の製法ではDPCの2倍モルのNaClが副生する問題が生じる。

 新しく開発された本技術はNaOHを使用しない触媒法でPC原料としての品質を達成する経済的な製造プロセスを確立した。品質を確保するため,まずDPCの品質と残留塩素イオン量の関係を明らかにし,フェノールとホスゲンとの比をフェノール過剰下で行い,ホスゲンの転化率をほぼ100%まで上げることによりDPCに残留する塩素イオン量を低減した。さらに,粗DPC蒸留時において分解により発生するフェニルクロロフォーメートに由来するハロゲンイオンの低減化に取り組み,向流式でアルカリと接触させる方式が効果的であることを見い出した。この結果,DPC中の塩素イオンをppbオーダーまで低減する方法を確立し,所定の品質を達成した。また,副生する塩酸中の不純物,特にホスゲン由来のフェノールのブロモ置換体を吸着法で低減させる技術を確立し,副生物である塩酸を工業的に利用できる製品まで価値を高めた。このほか,中和工程で排出される排水中のフェノールや触媒であるピリジン系触媒を排水のpH制御により効率的に回収してリサイクルする技術も開発し,経済的に,また環境適応に優れたプロセスとして完成させた。

 このように三菱化学(株)殿ではDPCの製造において,NaOHを使用せず,排水の環境負荷が少ない経済的な工業化プロセスを構築し,2000年11月より2万トン/y規模での生産を開始した。

 本DPC製造法は毒性の高いホスゲンを間接的に使用するものの,NaOHを使用しない触媒法を工業的なレベルまで向上させて実用化し,環境調和型プロセスとして前進させたことは評価に値する。また本技術の工業化によりPC製造法において界面法から環境に優しい溶融法への転換が今後ますます加速されことが期待される。よって,本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。

 
表彰平成14年度表彰受賞者一覧|ページへ