野口記念奨励賞

脱硫菌の基質特異性に関する研究

松井 徹殿((財)国際石油交流センター バイオ精製研究室 研究員)

 松井氏は,それまでバイオ脱硫の中心であったアルキルジベンゾチオフェン(アルキルDBT)資化性微生物では,ベンゾチオフェン(BT)が分解されないことに着目し,BTの資化能に優れるRhodococcus sp. T09株の分離に成功した。さらに,T09株の代謝経路の研究より明らかとなったアルキルDBT資化菌との代謝経路の相違に着目し,アルキルDBT脱硫遺伝子をT09株に導入した。この結果,T09株の基質特異性を大幅に拡大することに世界で初めて成功した。この過程で,発現ベクターへ導入する遺伝子のコピー数を最適化することによりプロトタイプの3倍の脱硫活性を獲得するに至った。

 脱硫における基質特異性の拡大には,種々の性質を有する遺伝子源(微生物)の探索が重要であるとの発想から,松井氏は従来とは異なる集積培養条件を考案し,既存の脱硫微生物と異なる細菌Gordonia rubropertincta T08,Pseudomonas sp. HKT554のほか,真菌類であるCunninghamella echinulata var elegans など広範囲な脱硫微生物探索に成功し,バイオ脱硫の実用化をさらに前進させる基盤を築いた。

 一方,スケールアップの際の問題点となっていた無機硫酸,含硫アミノ酸を硫黄源とした場合の脱硫活性抑制に対して遺伝子工学的手法により,安価な硫安を硫黄源としても活性が抑制されない遺伝子組み換え体の構築に成功した。加えて,これら新規分離微生物は,脱硫のみならず,多環式芳香族炭化水素,チオジグリコール,ベンゾチアゾールなどの環境汚染物質に対する高い分解活性を有することを示し,基質特異性に着目した研究成果がさらなる研究分野拡大につながるきっかけとなった。

 松井氏による一連の研究は独創的であり,バイオ脱硫の実用化を大きく前進させる基礎を築いた。また,同氏の研究は世界的にもバイオ脱硫をリードするものであり,過去4年間の当該分野論文の1/3以上を同氏の仕事が占めるほどである。

 以上のように,松井氏の本研究は独創的な基礎的研究であり,本会野口記念賞表彰規程第2条2項に該当するものと認められる。

 

*(現在)(株)ジャパンエナジー バイオ研究センター 主任研究員

 

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