学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)(学術的) 

飽和および不飽和炭化水素の官能基化技術の開発と利用

石井 康敬殿(関西大学工学部 教授)

 石井氏は,独創的で斬新な触媒を開発し,従来実現が困難であった炭化水素の反応に関して多大な成果を挙げている。また同氏は,産学連携にも積極的であり,業績の工業化促進にも尽力している。以下,同氏の業績を三つにまとめる。

 第一は,N-ヒドロキシフタルイミドを用いる触媒的な炭素ラジカル生成法を発見し,飽和炭化水素の効率的な官能基化法を確立した業績である。この業績は,Ishii Oxidation と称せられ,世界的にも注目される独創的なものである。飽和炭化水素の酸化的利用は,ここ半世紀にわたり大きな方法論的進展を見なかった。石井氏は,酸化に関する卓越した基礎的研究と優れた洞察力に基づき,N-ヒドロキシフタルイミドを触媒とする飽和炭化水素の水素引抜きを伴う画期的な炭素ラジカル生成法を開発した。これにより,飽和炭化水素の酸素化,ニトロ化,スルホン化などの官能基化に成功した。これらの成果は飽和炭化水素の官能基化の難題を解決に向かわせる画期的な業績である。常圧酸素のもとで,シクロヘキサンからアジピン酸,イソブタンから -ブタノール, -キシレンからテレフタル酸など,工業的にも有用な反応への活用が期待でき,工業化に向けて鋭意検討されている点も高く評価される。

 第二は,相間移動型ヘテロポリ酸塩触媒による過酸化水素酸化反応の研究である。石井氏は,触媒設計が可能なオキシ金属酸化物であるヘテロポリ酸に注目し,長鎖のアルキル基を含む四級塩からなるヘテロポリ酸塩触媒を創出した。この触媒は,水層と有機層の間を移動可能であることから,過酸化水素とまったく相溶しない無極性溶媒や無溶媒でも過酸化水素による酸化を促進し,アルケンのエポキシ化を始めとして多くの有機基質の選択酸化に成功した。この種の反応は,Ishii‐Venturello Chemistry と称せられ,石井氏の独創性を世界に示す業績である。

 第三は,バナジウム含量の高いヘテロポリ酸触媒とパラジウム触媒によるWacker型酸素酸化法の開発である。この触媒によりアルケンのアセタール化,アリル位のアセトキシル化に成功した。さらに,シクロペンテンの分子状酸素の酸化にも高い触媒活性が得られ,工業化が企図されている。

 以上のように,石井氏の炭化水素の官能基化技術に関する研究業績は顕著である。よって,本会表彰規程第3条第1項に該当するものと認められる。

 

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