学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)(学術的)
深度脱硫のためのチタニア担持モリブデン触媒の研究
瀬川 幸一殿(上智大学理工学部 教授)
瀬川氏は,石油精製における深度脱硫触媒の研究,特に深度脱硫のためのチタニア担持モリブデン触媒の基礎および応用研究で大きな成果を挙げている。同氏の業績は多岐にわたっているが,主なものを以下に二つに大別してまとめる。
第一は,モリブデン触媒に係わる基礎研究である。瀬川氏は,IR,Raman分光などの分光学的手法を用いて,活性点と担体に対して選択的に吸着するプローブ分子を見い出し,担体上のモリブデンの性質を詳細に調べ,数々の独自の成果を挙げた。すなわち,
(1) | モリブデンはアルミナ担体の水酸基と相互作用し,酸素原子を介してAl-O-Mo結合を形成し安定化する(担体の役割)。 |
(2) | 還元処理することにより表面に生成するモリブデンの配位不飽和サイトが形成される際,約50%のAl-O-Mo結合は切断されるが,残りの結合は保持され,活性点の安定化に寄与する(活性点の生成)。 |
(3) | アルミナ担体上ではモリブデンアルミネートのような難還元性物質が一部生成するが,チタニア表面では六配位モリブデンが均一に分散担持され,高活性化に寄与する(チタニア担体の優位性)。 |
以上,モリブデン触媒の基礎研究の成果から,高活性な脱硫触媒を開発する上で担体設計は非常に重要な因子であり,チタニアが担体として望ましいことを学問的に明らかにした。
第二は,チタニア担持モリブデン触媒の実用化に向けての応用研究である。チタニアはアルミナと比べ表面積が小さく,モリブデン種の担持量を増加させるのは困難である。そこで瀬川氏は,表面積の大きなアルミナ担体上にチタニア薄膜を形成させたコンポジット型担体の開発を試み,四塩化チタンを用いた化学蒸着(CVD)法によりアルミナ上にチタニア層を形成させた新規チタニア‐アルミナ担体を開発した。このコンポジット型チタニア‐アルミナ担体を用い調製した脱硫触媒は,ジベンゾチオフェン類の水素化脱硫反応に優れ,アルミナ担持モリブデン系触媒よりも高活性を示した。同氏は,さらにチタニア‐アルミナ担持触媒がアルミナ担持触媒よりも高活性を示した原因として,難脱硫性化合物であるジベンゾチオフェン類の芳香環の水素化が促進され,メチル基による活性点への立体障害が緩和され,水素化脱硫反応が促進されることを明らかにした。
以上のように,瀬川氏は石油精製触媒,特に深度脱硫触媒の分野において広範な研究を展開し,同氏の深度脱硫のためのチタニア担持モリブデン触媒の研究は高く評価され,かつ顕著である。よって本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
|表彰|平成13年度表彰受賞者一覧|ページへ |