奨励賞(昭和シェル石油賞)
不飽和炭化水素を用いた有機ケイ素化合物の新規直接合成法
岡本 昌樹殿(東京工業大学大学院理工学研究科 助手)
有機ケイ素化合物は,シリコーン樹脂や精密合成における反応剤,シランカップリング剤等として多方面に用いられ,今後の化学工業の展開にとって一層重要な地位を占めると予測される。従来,有機ケイ素化合物の製造は,塩化メチル等の有機ハロゲン化物を銅触媒存在下で金属ケイ素と反応させるいわゆる直接法による方法,クロロシラン類にグリニヤール試薬を反応させる方法,これらの方法を経由して製造されるヒドロシラン類を用いるヒドロシリル化による方法によっている。基本的には塩素化されたケイ素化合物をかぎとする原料体系となっているため,アトムエコノミー,反応装置の腐蝕,環境調和等の観点から,塩素フリーの体系への転換は強く望まれてきた。
岡本氏は,メタノールと金属ケイ素との直接反応によるトリメトキシシラン生成の反応機構を検討し,銅触媒表面に発生したシリレン種が反応中間体であることを提唱し,シリレン種に特有の化学的捕そく実験によってそのことを初めて証明した。さらに,シリレン種の有機不飽和化合物に対する高い反応性を巧みに利用して,金属ケイ素からの有機ケイ素化合物の新規直接合成法の開発にも成功している。すなわち,オレフィンまたはアセチレンの存在下で金属ケイ素とメタノールを反応させてアルキルジアルコキシシランを得ている。また,本手法をメタノールに代えて塩化水素を用いる方法に拡張し,アルケンおよびアセチレンから対応するアルキルジクロロシランおよびビニルジクロロシランを合成する反応を見い出した。同時に,ゲルマニウムの場合にも同様な合成反応が進行することを見い出し,ケイ素の場合との反応機構的差違を明らかにしている。
本分野は石油化学誘導品の工業技術として重要であるにもかかわらず科学的立場からの研究は少ない。岡本氏の見出した知見は,金属ケイ素の直接反応に関し,メカニズムを解明し,その展開を図ったものとして学術的意義が高く,同時にハロゲンフリーのケイ素化学体系の転換にとっても重要な貢献をするものと期待される。よって,本業績は本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。
|表彰|平成13年度表彰受賞者一覧|ページへ |