学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)(学術的) 

金属錯体触媒による自動酸化および酸化防止の反応機構の解明

大勝 靖一殿(工学院大学工学部 教授)

 大勝氏は,一貫して液相酸化の研究と石油製品・石油化学製品の安定化に対する酸化防止の研究を行い,多くの新しい基礎的事実を明らかにし,石油・石油化学においてのみならず,その関連基礎化学分野においても高く評価される研究を進めている。さらに,新しい応用技術・新規化合物の提案を行っており,石油・石油化学に大きく貢献するものである。以下,同氏の業績を液相酸化と酸化防止に分けて説明する。

 液相酸化の研究では,自動酸化における触媒として有機金属錯体を他に先駆けて使用し,その触媒作用において(1)水素引き抜き,(2)ヒドロペルオキシドのレドックス分解,(3)酸素の活性化,などに及ぼす配位子効果の様相を明らかにした。その知見に基づいて,配位子選択による選択的酸化反応触媒設計のための基礎を確立した。また,不斉の配位子をもつコバルト錯体を用いて不斉自動酸化および不斉酸化重合ができることを初めて明らかにした。

 酸化防止の研究分野では,石油・潤滑油からプラスチックに至る広範な酸化防止の検討を進めている。亜鉛ジチオリン酸塩のヒドロペルオキシドの分解機構において,初期にラジカル分解が,また後期にイオン分解が起こることを銅ジチオリン酸塩錯体をモデルとしたESRの研究から明らかにしている。フェノール系酸化防止剤は,石油・石油化学のいずれの分野においても重要であるが,フェノール類の置換基効果に関する研究に取り組み,新しい置換基効果を見い出している。これらの発見に基づいて,非常に高活性なフェノール,たとえばo-ヒドロキシ桂皮酸誘導体やo-イソプロピルフェノール誘導体を分子設計している。これは,従来多用されているフェノール系酸化防止剤BHTと比べ数10倍の活性を持ち,環境保全の点でも有機材料安定化に関して大きく貢献するもので,画期的な研究といえる。酸化防止剤である光安定化剤は20年ほど前よりHALS (hindered amine light stabilizers)が使用されるようになっている。HALSとフェノール系酸化防止剤を併用すると,光安定化能の向上が見られることを見い出し,これに基づいてHALSに代わる化合物,中性の水素化ベンゾインを分子設計した。これはフェノール併用下において,高い光安定化能を示すものである。

 以上のように大勝氏の研究は,液相酸化と酸化防止に関し,非常に基礎的な作用機構の検討に基づいて,新規化合物の開発を行ったものであり,いずれの研究業績も顕著である。よって本会表彰規程第3条第1項に該当するものと認められる。

 
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