奨励賞(三菱重工業賞)
プロトン型ゼオライト上での炭化水素の吸着とカルボカチオン生成に関する赤外分光法による研究
野村 淳子殿(東京工業大学資源化学研究所 助手)
野村氏は,固体酸触媒であるゼオライトへの主にオレフィン類の吸着状態を赤外分光法により詳細に検討し,炭化水素の反応で重要な中間体であるカルボカチオン生成に関して顕著な業績を挙げ,固体酸触媒上での反応機構をより詳しく,分子レベルで解明する基礎を築いた。同氏の業績は,石油精製の様々なプロセスにおける酸触媒反応を理解し,触媒の開発・改良を行う際に多大な基礎的知見を与えるものである。
野村氏は,ゼオライトの酸点へのオレフィン分子の低温領域での吸着挙動を赤外分光法により追跡し,アルキル基で吸着したオレフィン,π電子で吸着したオレフィン,アルコキシド等,室温付近の測定では報告のなかった様々な吸着状態を同定した。さらに,各吸着状態の相対的な自由エネルギーや各状態間の変換活性化エネルギーを求め,これらがゼオライトの細孔の大きさと関連があることを明らかにした。また,ブテンの二重結合移行は,230 K以下の温度で,酸性水酸基から吸着オレフィンへのプロトン移行を伴わずに進行すること,すなわちこれまで定説となっていたカルベニウムイオンを経由しない機構で進行することを見い出した。また,環状オレフィンをHZSM-5に吸着させると環状不飽和カルボカチオンが生成することを赤外分光法で初めて観測した。環状不飽和カルボカチオンの生成は環状アルコールの吸着でも観測され,不飽和カルボカチオン(アルケニルカルベニウムイオン)の反応中間体としての重要性を強く示唆した。
以上の研究業績は,炭化水素が固体酸触媒上で進行する反応の機構を解明する上で寄与するところ多大であり,石油精製と石油化学工業における触媒開発の基礎研究として高く評価でき,本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。
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