学会賞(表彰規程第3条2項に該当するもの)(学術的)
メソ多孔体担持複合酸化物触媒によるテトラヒドロフラン開環重合プロセスの開発
三菱化学株式会社殿
ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)は1,4-ブタンジオール,テトラヒドロフランの誘導品であり,伸縮性に優れた繊維用ポリマーの原料として需要が着実に伸びている製品である。従来の工業プロセスでは,触媒として腐食性のフルオロ硫酸や過塩素酸塩と無水酢酸の混合物を使用し,反応後中和や無害化処理を行うため,大量の廃棄物の発生やバッチプロセスによる生産性の低さなど大型化に課題があった。
三菱化学(株)はテトラヒドロフラン開環重合プロセスに対し,固体酸の開発や適度なメソ細孔を有する担体の選定,活性成分の担持位置の制御技術などをシミュレーション手法も併用しつつ,新規工業プロセスの開発に成功した。固体酸の開発には,活性点が適度な強度を有するLewis酸であることを明らかにするとともに,本反応に有効なZrO2・SiO2などの複合酸化物を見い出した。生成物であるPTMGの酢酸エステル(PTME)は分子量1000程度の比較的大きな分子であることから、その物質移動速度が触媒性能に大きな影響を与えることを実験で確認し,それに基づいて細孔半径15 nm程度のメソ細孔が最適であることを見い出した。また,活性成分の分布に関しては,原料および生成物の拡散速度,連鎖成長速度などを仮定したシミュレーションによる検討に基づいて,生成物分布がシャープとなるegg-shell型複合酸化物担持方法を開発した。本触媒開発で行われた固体酸触媒の開発,分子量の大きな化合物製造へのメソ多孔体担体の適用および活性成分の位置制御担持の手法や技術は今後同様な系に広く応用されることが期待される。
本固体酸触媒の開発により,従来法の問題点であった触媒由来の廃棄物をの出さない環境調和型プロセスをが構築された。さらに,触媒の固体化および高選択性の向上により,連続式プロセスとして生産性の向上を達成した。これにより,商業装置において建設費で40%,運転費で15%程度の削減がなされている。ここで生産されるPTMEは触媒性能および連続式運転(一定温度・接触時間)のため,低分子量生成物の低減や分子量分布の安定などの点でラボ実験以上の極めて安定な品質を維持している。
本プロセス開発にあたっては,触媒開発を1992年に開始し,触媒関連特許3件の出願を行っている。1996年からプロセス化検討にも着手し,2000年8月より三菱化学(株)四日市事業所において2万トン/年の規模で商業装置が本格稼働を始め,現在に至っている。
以上のように,固体酸の使用による触媒由来の廃棄物の大幅な低減,メソ多孔体担体による高選択性・高活性触媒の開発,さらに連続式プロセスの構築による製品品質および経済性の向上を実現している。よって,本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。
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