学会賞(第3条1項に該当するもの)(学術的)

炭化水素類の高度利用を目的とする触媒の開発と作用機構の解明

鈴木 俊光殿(関西大学工学部化学工学科 教授)

 鈴木氏は石油化学,石油精製における基幹原料である炭化水素の高度利用を目的として,触媒反応機構の解明,複雑系物質の構造解析等の基礎的な研究を展開し,またこれらの研究成果に基づいて炭化水素の有効利用に関するいくつかの新しい触媒反応の開発に成功している。研究業績は大別すると以下の三つの分野にわたっている。

 (1)は,第1世代のα-オレフィン重合触媒がポリマーの立体規則性を支配する機構の解明およびポリマーの構造解析に関する研究である。重合初期過程の生成物を検討するという独自の手法を用いて,触媒活性点である金属アルキル結合へのα-オレフィン挿入によって,チタン系触媒では第1級の,バナジウム系触媒では第2級の金属アルキル結合が生成することを示した。そして,ポリマーの立体規則性が,前者では触媒活性点の構造で制御されることによりアイソタクチック構造となるが,後者では重合物の成長末端の立体構造により制御されてシンジオタクチック構造となることを示し,その後の本触媒系の研究に指針を与えた。

 (2)は,重質炭素資源の構造解析と変換利用に関する研究である。NMRを用いる複雑系物質の構造解析手法を基礎に,各種重質油の構造モデルを検討し,石油残さ油の平均構造として従来提案されていたよりも長い,炭素数10から20にも及ぶ直鎖アルキル基が存在することを指摘した。また,有用生成物の収率を高めるための重質油の二段分解法を提案した。この方法は,重質油の低温熱分解とそれにより生成した低分子量の分解油を高温熱分解する二段プロセスより構成され,エチレンやプロピレンを高収率で得られること,さらには二段目に接触分解触媒を用いることにより,ガソリンや灯軽油の生成も可能となるとしている。さらに,コークや石炭液化残さ等の炭素質物質の水蒸気や二酸化炭素による接触ガス化反応について研究した。この反応に有効な鉄やアルカリ金属触媒の触媒作用が金属種のレドックス機構によるものであることをパルス反応などの非定常反応法を用いて明確にした。

 (3)は,上記のレドックスサイクルを炭化水素の脱水素反応へ利用した研究である。すなわち,二酸化炭素で酸化することができ,かつ水素で還元されて元の状態に戻ることが可能な金属または金属酸化物触媒を探索し,活性炭担持酸化鉄や酸化ガリウムのような高活性触媒を見い出した。二酸化炭素によるエチルベンゼン,イソブタン,エタン等の酸化脱水素反応をこれら触媒の存在下で行い,反応を著しく促進すると同時に,オレフィンへの選択性を高めることができた。

 以上のように鈴木氏の研究業績は,石油精製および石油化学における基幹原料の高効率利用法の開発,新規製造法の開発など基礎的な研究において,我が国学術水準の向上に大きく寄与しているものである。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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