技術進歩賞

高純度硫化水素製造プロセスの開発

日揮株式会社殿

 日揮(株)の本技術は,プラスティック,医薬,農薬などの基礎原料として需要が増している硫化水素(H2S)とその誘導体の製造法に関して,単体硫黄に水素を添加する2段反応プロセスの開発により高純度硫化水素の効率的な製造を可能にしたものである。従来,硫化水素は,脱硫装置のオフガスから硫化水素を精製,または単体硫黄とメタンの反応によって二硫化炭素を併産して製造していた。しかし精製コスト,運搬・貯蔵のはん雑さ・危険性,副産物の需要減退等の理由から,最終製品の製造元においてより効率的・選択的に製造することが求められている。同社は,第1反応器に伝熱特性に優れた気泡塔を用いた熱反応,第2反応器に選択性耐熱性触媒を充てんした固定床反応器による高転化率気相接触反応を組み合わせ,未反応硫黄が1 ppm以下の高純度硫化水素を製造する技術を開発した。

 本技術に関しては,昭和61年,昭和63年,平成元年に計5報の特許が出願され,開発後も第1世代から第4世代まで順次改良が繰り返されてきた技術である。その大きな特徴は,熱反応と触媒反応を組み合わせたことにより,高純度の硫化水素を効率よく製造できるようになったことにある。これは,熱力学的平衡が生成物側に十分偏っていること,2段反応方式により大きな発熱反応を効率的に制御できたことによる。また最終製品を,使用目的に応じて,硫化水素/水素混合ガス,液化硫化水素,硫化アルカリ水溶液の状態で取り出すことができるので,幅広い基礎原料の製造に適用できる。

 本技術の実績としては,硫化水素/水素混合ガス製造装置の1号機が平成9年に建設され,平成11年には高濃度水硫化ソーダ水溶液製造装置が建設され,現在順調に稼動している。平成13年には,液化硫化水素製造装置が完成する予定となっており,十分に実用化・工業化された技術となっている。本装置は,腐食環境下で高転化率を達成しながらも,反応熱を制御することにより,反応材料面での負担を軽減し,SUS材での対応を可能としている。また第2反応器に用いられる耐熱性に優れ寿命の長い触媒の開発は,触媒の交換頻度を少なくし,ランニングコストを低減している点も特徴といえる。

 本技術により,製造元で基礎原料の高純度硫化水素から最終製品まで一貫して製造できるようになったことから,製造コストの削減や品質の向上が図られ,より高品質の製品が安価に市場に提供できるようになった。またこの硫化水素は毒性が非常に強く,十分な安全管理が要求されるところであるが,本技術ではその安全や環境に対するリスクも軽減できている。さらに,単体硫黄の生産量に対して多品種少量の化学製品に消費される硫黄の量はわずかではあるが,硫酸などの需要増加が望めない現状では多少なりとも余剰単体硫黄の利用拡大に貢献できる。

 以上の点から,本技術は本会表彰規定第9条に該当するものと認められる。

 

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