技術進歩賞
重質成分対応ベンゼン蒸気回収装置の開発と実用化
岡西 茂実殿(出光エンジニアリング(株)商品開発室 技師)
江藤 祐一殿(出光エンジニアリング(株)商品開発室 主任部員)
世界的に環境保全への要求が高まる中で,我が国においても有害大気汚染物質の排出防止が重要課題となっている。特にベンゼンは揮発性が高く有害性が指摘されていることから,大気中への排出防止が強く求められている。最近,規制強化も発表されている。
このような情勢下,出光エンジニアリング(株)は,平成8年に基本技術導入後,まず適用されたPSA(圧力スイング吸着)方式によるガソリン蒸気回収装置を改良し,ベンゼン蒸気回収装置(商品名:IDESORB-B)を開発した。本技術はベンゼン蒸気を高濃度で含む空気を,圧力スイング吸脱着操作と冷却・凝縮操作を含むシステムで処理し,ベンゼンを空気より除去回収する装置の実用化を行ったものである。ベンゼンや粗ベンゼンの20%程度の高濃度蒸気をPSA装置単独で10 vol ppm以下のレベルまで処理できる技術である。つまり,大気汚染防止法の指定物質排出規制値を吸着法のみでクリアする世界初の実装置である。平成10年よりの改良にあたっては,吸着剤の評価技術を確立して吸着能力の優れた不燃性のシリカゲルを選定し,さらにPSA特性評価技術を開発し,吸着・脱着条件の最適化を行った。こうして回収率が99.99%以上と二けた向上し,さらに前処理冷却を行うことにより,吸着剤の劣化を引き起こす重質な炭化水素を含む用途にも適用範囲を広げることができた。
本装置は平成11年,新日鐵化学(株)広畑製造所に1号機を納入。同年10月より運転開始し,設計通りの性能を発揮して,現在まで安定した稼動を継続している。今後も,ベンゼンおよび他のVOC(揮発性有機物)の排出防止用途への適用が大きく期待される。現状の指定物質抑制基準が1/10から1/100程度に強化されても十分に対応可能と考えられる。
本技術と関連があると思われる他社技術として,膜分離と吸着装置の組み合わせ法やフレームレス高温酸化法があるが,前者はコスト高,後者はベンゼン回収不可といった点で本技術の優位性がある。
よって,本技術は,環境対策面および資源の有効活用面において有用な方法を提供したことにより,我が国の化学工業の持続可能な発展に大きく貢献したと考え,本会表彰規定第9条に該当するものと認められる。
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