学会賞(第3条2項に該当するもの)(工業的)
自動車用トロイダルCVT用トラクション油の開発と実用化
出光興産株式会社殿
自動車排ガスの浄化とさらなる燃費の向上が自動車に課せられた重要技術開発課題となっているなか,数々の新技術が次々と実用に移されてきている。燃費向上に関してはエンジン内部での摩擦に基づくエネルギー損失を低減させるための省燃費エンジン油の開発,駆動系における燃費向上のための新機構がいくつか実用化されるなど,数々の開発が活発に行われてきている。
1999年には,これまでにない新たな自動車用変速機として,トラクションドライブ式無段変速機に属する「トロイダルCVT」が実用化されるに至った。無段変速機構は,車速に関わらず常に最も燃費の良い回転数領域でエンジンを稼動させることを可能とするものであり,これまでは金属ベルトを用いた「ベルト式CVT」が主に中・小型車用に開発され実績をあげてきていた。しかし,ベルトの耐久性,ベルト/プーリー間のすべりの問題などから大排気量車への適用は不可能であった。今回開発されたトロイダルCVT機構は大排気量の高出力車への無段変速機構の適用を可能とするものであるが,駆動力の伝達には潤滑油膜を介して接触する回転部分のトラクション力(摩擦力)を利用するため,通常の潤滑油に用いられる基油では達成することができない高いトルク伝達能力(トラクション係数)を示す新たな潤滑油の開発が必須であった
自動車用トロイダルCVT機構の開発は1978年頃から日本精工(株)で開始されていた。一方,出光興産(株)は1981年頃から独自にトラクション流体の研究開発を進めていたが,1982年から両者は共同して自動車用トロイダルCVTの開発を進めてきたものである。1990年には要求される高いトルク伝達能力を達成するとともに,これと半ば相反する要求である低温流動性と低粘性を同時に満足する新たな化合物の開発に成功し,1996年にはこれを潤滑基油とするための工業的製造方法を確立させた。さらに,自動車用トロイダルCVTに要求される数々の性能を満足させるため新しい添加剤の開発も行い,1999年にトロイダルCVT搭載の量産市販車が日産自動車(株)から世界で初めて市場に登場することとなった。 今回の新たな潤滑油の開発に用いた定量的構造物性相関による分子設計技術の構築と,それに基づく新規の分子構造化学物質の設計は,開発手法の点で独創的であり,従来にない高トラクション係数と低温下の低粘度を満足する合成系基油開発,ならびに長疲労寿命性能を付与する新規添加剤の配合技術の開発において,十分な新規性を備えるものである。
したがって本研究開発は技術開発の総合性が高く,社会に与える影響も大きなものがあり極めて意義深いものであると判断される。よって,本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。
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