【奨励賞】(千代田化工建設賞)(学術部門)

リンカー部位の芳香族ドメインサイズに着目した金属有機構造体吸着剤の設計

 

藪下 瑞帆 殿(東北大学大学院工学研究科応用化学専攻 助教)

 藪下氏は,金属有機構造体(MOF)を構成するリンカー部位の芳香族(ベンゼン,ビフェニル,ピレン)ドメインサイズを制御することで,バイオマス由来芳香族化合物を選択的に吸着できることを見出し,その吸着原理の解明を行い,優れた業績を挙げた。
 バイオマスから有用化合物を得る技術として長年有望視されているものに,セルロースを解重合してグルコースを得たのちに,酵素発酵させてエタノールを製造するプロセスがある。しかし,グルコースを得る過程で,酵素に対する触媒毒になる芳香族化合物(フラン類やフェノール類)が副生し,きょう雑してしまう。藪下氏はこの課題に対し,芳香族ドメインのサイズを変えることにより,吸着質と吸着サイト間のCH-π相互作用とπ-π相互作用を精密に制御することで,芳香族化合物を選択的に吸着除去することを着想した。リンカー部位の芳香族ドメインのサイズが異なるMOFを用い,大過剰のグルコース(500 mM,1 M = 1 mol dm-3)が共存する水溶液から,きょう雑の可能性が最も高い5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF,8 mM)の吸着除去を行った。その結果,芳香族ドメインがピレンのMOF(NU-1000)を用いると,グルコースが吸着されることなくHMFを選択的に除去できることを示した。さらに,NU-1000はフェノール類についても同様に高い分子認識能を示すことに加え,吸着質との相互作用の強さにはフェノール類がもつ官能基には影響せず,吸着質の大きさのみに依存することを実験および計算科学の両面から証明した。また,藪下氏の報告は一般的なガス吸着ではなく水溶液中での吸着除去であること,および糖化合物とHMFとの競争吸着による選択吸着ではなく芳香族化合物のみの選択吸着であることは,従来の吸着とは異なる原理に基づいており,新規吸着剤の開発への展開が期待できる。
 以上のように,藪下氏はMOF材料中の吸着サイトを精密に設計することで特異な吸着能を発現させ,その吸着原理を明らかにすることに成功した。藪下氏の業績は,今後の吸着剤開発の指針を示したものであり,高機能吸着剤の開発に大いに寄与するものである。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。

 

表彰2024年度表彰受賞者一覧|ページへ