【奨励賞】(ENEOS賞)(学術部門)
接触分解反応場で進行する水素移行反応を活用した重質油およびバイオマス資源からの軽質炭化水素製造
嶋田 五百里 殿(信州大学繊維学部化学・材料学科 准教授)
嶋田氏は,接触分解反応場で進行する水素移行反応に着目し,重質油中に含まれる多環芳香族炭化水素の分解や,バイオマス資源中の含酸素化合物の脱酸素化における水素移行反応の機構解明およびその有効活用に優れた業績を挙げた。
石油精製における接触分解プロセスは,重質油を分解してガソリン等の高付加価値成分に転換する技術であり,近年ではバイオマス資源や廃プラスチックなどの共処理による軽質炭化水素製造での活用も期待されている。水素移行反応は接触分解反応場で進行する2分子間での水素の授受を伴う反応であるが,生成するガソリン中のオレフィンを水素化してオクタン価の低下が生じるためプロセスや触媒で抑制されてきた反応である。嶋田氏は,非水素雰囲気下で進行する接触分解反応において水素移行反応が生成物間の水素の分配を制御する重要な役割を担うことや,その極めて強い局所的な水素化能を明らかにし,多環芳香族炭化水素の接触分解やバイオマス由来の含酸素化合物の分解・脱酸素化への水素移行反応の積極的な活用を検討した。
従来,接触分解反応場において多環芳香族炭化水素は難分解性と考えられてきたが,嶋田氏は水素供与体存在下での接触分解反応によって三環芳香族炭化水素を単環芳香族炭化水素などの付加価値の高い物質に分解することに成功した。また,バイオマス資源の共処理においても,水素移行反応の寄与によって非水素雰囲気下での反応にもかかわらず炭素損失を抑制し,水として脱酸素化が進行すること,脱酸素化がオレフィンの水素化よりも優先して進行することを見い出した。さらに同氏は,複雑な混合系の反応である接触分解プロセスに対して機械学習を導入した解析を行い,水素供与体と水素受容体の相互作用を抽出する手法の開発にも取り組んでおり,反応機構の解明や反応モデル構築での活用が期待される。
これらの嶋田氏の研究成果は,従来の接触分解プロセスとは異なる新たなプロセス設計指針を提案するものであり,今後の石油のノーブルユースおよび燃料油や化学品の低炭素化に大きく貢献するものである。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。
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