学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

ゼオライト分離膜の合成技術と応用に関する研究

 

松方 正彦 殿(早稲田大学理工学術院 教授)

 松方氏は,ゼオライトの新規合成法の研究を足掛かりとし,多様な細孔構造を有するゼオライトの合成と形成機構の解明を行ってきた。さらに,ゼオライトを薄膜化することにより,混合物から対象の物質を選択的に透過する分離膜の開発を1990年代の黎明期から先導してきた。近年では,ゼオライト膜と触媒とを組み合わせたメンブレンリアクターの開発にも挑戦し,化学反応と分離工程を含む工業プロセスの高度化・省エネルギー化を追究している。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 松方氏は,乾燥アルミノシリケートゲルを水蒸気雰囲気下で処理することによってゼオライトを合成するDry Gel Conversion(DGC)法を最初期から研究し,ZSM-5やフェリエライト,ベータなどの合成や,各種ゼオライト膜の形成に本法が応用できることを示した。同氏らが発展させたDGC法は,一般的な水熱合成法では得られない構造や組成のゼオライトの合成をも可能にする新たな合成法の一つとして定着しているほか,ゼオライト類縁化合物やメソ多孔体,金属有機構造体の合成およびこれらの分離膜の研究にも幅広く用いられている。
 ゼオライト膜の研究においては,シリカライト-1,フォージャサイト,ZSM-5,フェリエライト,モルデナイトなどの膜形成機構の解明と膜構造の制御法の開発を行い,分子ふるい特性や吸着性の差に起因する分離機構の解明を進めつつ,多様な工業プロセスへの適用可能性を示した。とりわけ,2009〜2013年度NEDO事業では,プロジェクトリーダーとして分離膜の実用化研究を推進し,石油化学プラントにおいてイソプロパノールの脱水プロセスにゼオライト膜を初めて適用するなど,顕著な成果を挙げている。今日,わが国企業が有機溶剤の脱水膜について大きな市場を獲得しているのは,こうした技術実証を通じて脱水膜の製造と性能改善に向けた知見を集積できたことも要因の一つと考えられ,同氏の産学への貢献を評価できる。
 また,ゼオライト膜と固体触媒を組み合わせたメンブレンリアクターの研究では,エステル化やエステル交換反応,メタノール合成や逆水性ガスシフト反応などの多様な液固系,気固系反応に関して,通常の触媒反応器の平衡制約を超えて化学反応を促進することが可能であることを示した。さらに,近年では,ゼオライトの階層構造化による触媒機能の高度化が注目されているが,松方氏は,水酸化ナトリウム水溶液を用いた後処理によりミクロ細孔とメソ細孔を有する階層構造ゼオライトの製造方法を早くから報告しており,こうした新規な研究分野の開拓にも貢献したと言える。
 以上のように,松方氏は,ゼオライト分離膜の合成とメンブレンリアクターの開発において先駆的な成果を挙げ,この分野の学術的発展に大きく貢献したと判断される。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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