学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]
構造体触媒を基軸にした温室効果ガスの資源変換に関する反応工学的研究
福原 長寿 殿(静岡大学学術院工学領域 教授)
福原氏は,触媒化学と反応工学の学理を融合した構造体触媒反応システムを構築し,温室効果ガスの物質変換において,高熱伝導性や低圧損性等の特徴を有する構造体触媒の有効性を実証するとともに,触媒反応工学に関わる重要な知見と技術を提供している。以下に,同氏の研究成果をまとめる。
福原氏は,ハニカム形やプレート形,スパイラル形の金属基材の構造体上に,ウオッシュコート法や新規の無電解めっき法などを用いて触媒成分を形成させた構造体触媒調製方法を確立し,様々な反応系に対しその有効性を実証している。具体的には,ニッケル,ルテニウム,銅,パラジウムを活性金属種とした構造体触媒を開発するとともに,これらの構造体触媒は,二酸化炭素のメタン化反応,メタンのドライ改質反応,一酸化炭素の水性ガスシフト反応,メタノール水蒸気改質反応において,いずれも従来の触媒系に匹敵する,またはそれを凌駕する特性を示すことを明らかにした。
また,開発した構造体触媒を用いて,原料ガスを大量に高速で処理する構造体触媒反応システムを構築し,その有効性を学術的に明らかにしている。たとえば,高熱伝導性と低圧損性を実現可能なニッケル系プレート形触媒反応システムを構築し,大きな吸熱反応であるメタノール分解に対し,良好な熱管理と原料ガスの大量処理,そして迅速な負荷応答性を実証した。加えて,構造体の形状の違いが反応特性に及ぼす影響を検討し,触媒表面上の物質・熱移動の加速効果が反応性を大きく向上させる知見を得ている。特に,スパイラル形構造体触媒の場合には,触媒表面上に発生するスワール流れによる強力なガス旋回流の発生が,触媒上の境膜の薄層化とそれに伴う物質・熱移動の加速をもたらし,高速で高効率な物質変換を実証した。境膜抵抗の低減(物理特性の改善)を反応性の加速(化学特性の改善)に積極的に活用した研究は学術的にも先進性があり,工業的にも展開性の高い触媒変換技術である。
さらに,二酸化炭素を高効率で大量に資源化する新規触媒反応プロセスの開拓に成功している。具体的には,工場から排出された二酸化炭素を分離濃縮せずに空気が混在したままメタン化するプロセスを見い出しており,酸素の存在がメタン化を加速し,高メタン収率を達成している。この現象には燃焼性ガスの最小着火エネルギーの序列が関与することを解明し,世界初の技術であることからオートメタネーション(auto-methanation®)と名付けている。また,二酸化炭素のメタン化,メタンのドライ改質,一酸化炭素の不均化と還元反応による固体炭素捕集の3つの工程を組み合わせた,排ガス中二酸化炭素の炭素固定化プロセスの構築へ展開している。
以上,福原氏は構造体触媒を軸に触媒反応プロセスの開発に取り組み,独自の構造体触媒を開発し,その有効性を明らかにするとともに,新規二酸化炭素資源化プロセスを開発しており,今後のカーボンニュートラル化に向けた技術開発において顕著な成果を挙げている。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
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