奨励賞(学術部門)
金属水素化物およびゼオライト細孔内の卑金属ヒドリド種の低級アルカン脱水素触媒能の開拓
前野 禅 殿(工学院大学先進工学部環境化学科 准教授)
前野氏は,固相イオン交換法を利用してゼオライト細孔内に配置した金属種に着目し,金属ヒドリド種の生成および金属ヒドリド種上で発現する特異的な触媒機能の解明を行った。また,バルクの金属水素化物に着目して固体触媒としての機能の開拓を行い,低級アルカン(エタン・プロパン)の直接脱水素へ応用し,優れた業績を挙げた。
一般に,固体表面に生成する金属ヒドリド種は不安定であるため,金属ヒドリド種の特性ならびに機能の解明は困難である。前野氏は,金属酸化物とアルミノケイ酸塩ゼオライトを固相のまま混合させ,水素還元後にin situ分光測定し,さらに計算化学的解析を組み合わせることで,ゼオライト細孔内での金属ヒドリド種の生成および触媒機能の解明を行った。酸化インジウムとCHA型ゼオライトを組み合わせることで,ゼオライト細孔内でインジウムジヒドリド種の生成に成功した。また,酸化ガリウムの量と水素還元処理の制御により,ゼオライト細孔内において,ガリウムジヒドリド種を優先的に生成することに成功した。これらの金属ジヒドリド種は,エタンの直接脱水素反応において,活性サイトとして作用すること,そしてエチレンの高選択的な生成に寄与することを初めて見い出した。特に,エチレン選択性が低いとされるガリウム交換型ゼオライトにおいて,ガリウムジヒドリド種を生成したMFI型ゼオライトは,非白金系触媒の中で最も高いエチレン生成速度および優れた耐久性(触媒寿命)を示した。
前野氏はさらに,金属ヒドリド種が示す特異な触媒機能の検討をバルク体にまで拡張させ,金属水素化物が脱水素能を示すことを見出した。チタンやランタンの水素化物を用いることで,低温域でのプロパンの脱水素を達成し,また水素の共存が脱水素を促進すること,および金属水素化物中の水素欠陥がプロパンの活性化における重要な因子であることを見出した。
以上のように前野氏は,ゼオライトと金属酸化物を用いた固相イオン交換法により,卑金属元素の特定のヒドリド種を選択的に生成できること,また卑金属元素のヒドリド種や金属水素化物が低級アルカンの脱水素によるオレフィンの選択的な生成を促進することを見出した。このような業績は,新たな触媒設計指針を与えるものであり,今後の固体触媒開発および触媒反応プロセスの発展に大いに寄与するものである。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。
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