技術進歩賞
原油スラッジからの油回収およびその再原油化技術の開発
コスモ石油(株) 殿
(独)エネルギー・金属鉱物資源機構 殿
アブダビ石油(株) 殿
(独)エネルギー・金属鉱物資源機構 殿
アブダビ石油(株) 殿
本技術は,原油貯蔵タンク底部に堆積するスラッジから油分を回収して再原油化することで資源を有効利用し,産業廃棄物を削減することを可能とした。
一般的に原油を長期間貯蔵すると,タンク底部に油分や固形分,水分等の混合物であるスラッジが堆積するため,タンクの開放点検時に原油洗浄を行いスラッジを回収する。製油所では回収したスラッジは精製装置への影響を抑えながら処理される。一方,近隣に精製装置がない産油国の油井や国内外の石油備蓄基地では,スラッジは洗浄に使用した原油とともに産業廃棄物として処理されており,処理費用に加えて多大な環境負荷を伴う。そこで,スラッジから油分を回収して再原油化することで,産業廃棄物を削減しつつ操業コスト低減を図る本技術が開発された。
本技術は,スラッジを遠心分離して油分を回収する工程と,回収した油分(回収油)を原油と混合する再原油化工程で構成される。スラッジ中の油分には重質なワックスやアスファルテンを多く含有するスカムが存在し,このスカムを適切に分離しなければ遠心分離機の閉塞を起こし連続運転が困難になる。そこで,遠心分離機内における油水界面を的確に推定する手法を見出し,その手法を基に油水界面を制御することで装置の閉塞を起こさず連続的なスラッジの処理を可能にした。
再原油化工程においては,回収油と原油を混合する際に再スラッジ化を抑制する必要がある。回収油を加熱してワックスを融解させて原油と混合した際,回収油濃度の高い部分が発生するとワックスが冷えて固化し,それを核とした再スラッジ化が起こる恐れがある。そこで,適切な温度,流量でラインミキシングすることで回収油を原油中に微細かつ均一に分散できることを見出し,混合前の原油と同等レベルまでスラッジの生成を抑制した。
これまでにUAEにて実施された実証試験では,原油タンクに堆積したスラッジを処理し,スラッジの削減効果としては50 %以上,経済性としては20 %以上のコスト削減を達成している。
脱炭素化の流れの中でも緊急時のエネルギー供給のための石油備蓄は重要であり,本技術は,精製装置を有さない油井近辺や備蓄タンクに適用できるのが特徴である。スラッジを産業廃棄物として処理すると環境負荷が高いが,本技術によってスラッジから回収した油分を再原油化することで,産油国のみならず石油備蓄を抱える国や地域に広く貢献することが期待される。よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。
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