学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]
前周期遷移金属錯体触媒による高機能オレフィン系ポリマーの創製と選択的オリゴマー化
野村 琴広 殿(東京都立大学大学院理学研究科 教授)
野村氏は,独自に設計し合成した前周期金属錯体触媒がオレフィンの付加重合やオリゴマー化,メタセシス重合において従来触媒よりも高い性能を発揮することを見出すとともに,活性種構造や反応機構の解析にも取り組み,当該分野の進展を先導する数多くの優れた成果を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
1990年代後半,シクロペンタジエニル(Cp)基を二つ有する従来のメタロセン錯体触媒では合成が困難な新しいオレフィン系ポリマーの創製を主目的として,世界的に次世代オレフィン重合用触媒の研究が活発になり始めた。野村氏はいち早く一つのCp基とヘテロ元素含有非Cp系配位子を併せ持つ非架橋型ハーフメタロセン錯体触媒を独自に設計し開発に着手した。本触媒系は,従来の架橋型の錯体触媒において提唱されていた「広い反応空間を確保するために架橋が必須」という概念にとらわれることなく独自に設計したものである。本触媒系の配位子効果を最大限に発揮させるため,構造改良に精力的に取り組んだ結果,従来触媒では高効率でエチレン等と共重合させることが困難であったかさ高いオレフィン,環状オレフィン,芳香族ビニルモノマー,極性モノマーなどを,高活性・高コモノマー取込み率で共重合を進行させることが可能な触媒を多数見出してきた。そして,本触媒系を用いることにより,工業的に利用されている安価な原料を用いて高機能オレフィン系ポリマーを合成することに成功した。同氏が見出した触媒系は,良共重合性触媒として知られる従来の架橋型ハーフメタロセン錯体触媒である幾何拘束型触媒(Constrained Geometry Catalyst, CGC)と比較しても合成が容易であるだけでなく,ほとんどの共重合での性能に優れるためため,本成果は実用的な観点からも意義深い。
野村氏はイミド配位子とアニオン性配位子からなる5価バナジウムあるいはニオブ錯体触媒の開発も行った。開発したバナジウム錯体触媒は,エチレンの重合において高活性で超高分子量ポリマーを与え,エチレンの二量化においては既報より高活性で,かつ97 %以上の高選択率で1-ブテンを与えた。さらに,5族遷移金属錯体触媒では報告例のなかった開環メタセシス重合において,高活性・高立体特異性・リビング性を示す触媒も開発し,高機能材料を創出することにも成功した。
野村氏は,これらの研究成果について多数の学術論文・総説・著書にて発表を行い,多数引用されている。また,国内外学会において多数の特別・基調講演を行い,国際学会の組織委員長や企画・担当も務め,本研究分野における先導的役割を果たしている。
以上,野村氏は非架橋型の錯体触媒に焦点を絞って独自の錯体触媒の設計を行い,その構造と触媒機能の関係を詳細に明らかにすることで当該分野における知見の蓄積に寄与し,学術的発展に大きく貢献してきた。野村氏が開発した非架橋型ハーフメタロセン錯体触媒がベースとなった触媒は国内外での産業利用に繋がっており,実用的にも顕著な研究業績を挙げていると判断される。よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
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