技術進歩賞

脱炭素社会に向けたアンモニア利用大型ガスタービン複合発電システム

三菱重工業(株) 殿

 本技術は,電力部門の脱炭素化に向けた50万kW級大型ガスタービン複合発電における燃料アンモニア利用に関するものである。ガスタービンの排熱を利用するアンモニア分解装置と水素混焼および専焼ガスタービン燃焼器の技術開発からなり,既設発電所を最小限の改造で燃料アンモニア利用発電に転換することを可能にしている。
 水素は代表的CO2フリー燃料であるが,わが国では再生可能エネルギーによる水素製造と長距離大量輸送に関する地政学的な問題から,CO2フリー燃料であると同時に水素キャリアとしても優れた特性を有するアンモニアの直接燃焼の技術開発が進められている。しかし,大型ガスタービン複合発電における燃料アンモニアの直接燃焼は,燃料起源のフューエルNOx に加えサーマルNOx 増大が懸念され,アンモニアの低燃焼性とNOx 抑制燃焼法に対応する燃焼器の大型化や複雑化など技術課題も多い。そこで,本技術は大型ガスタービンの排熱を利用してアンモニアを水素と窒素に分解し,水素ガスタービンの燃料として用いる技術を開発したものである。水素は燃焼速度が大きいため逆火が生じやすく,燃焼器を損傷するリスクが大きい。そこで,燃焼器内の水素と空気の混合状態を改良し,逆火が発生しにくい構造であるマルチノズル燃焼器およびマルチクラスタ燃焼器を開発し,燃焼安定性向上とNOx 排出低減の両立を図ることに成功している。ガスタービンの排熱を利用したアンモニア分解装置では,多様な貴金属系触媒,非貴金属系触媒によるアンモニア分解効率を試験して残留アンモニア濃度を精度よく予測することを可能にしている。また,燃焼器出口NOx 濃度に及ぼす影響を燃焼試験により確認するとともに,分解サイクルの効率,経済性,運用性も考慮したシステム開発を行っている。これらの分解装置,燃焼器ならびにガスタービンプラントの特許を既に取得済みである。
 水素ガスタービン燃焼器ならびにガスタービンの排熱を利用したアンモニア分解装置を組み合わせた大型ガスタービンシステムは過去に例がなく,従来の天然ガスだきガスタービンと比較したエネルギー効率の面でも有効であることが予測されている。我が国の大規模発電において本システムの利用が想定されるのみならず,現在のところ水素をCO2フリー燃料の主役とみなしている欧米においても,水素ガスタービンへの転換ならびに将来の燃料アンモニア利用のいずれにも対応可能という点で有用性が高く,燃料アンモニアを用いる発電において我が国の技術的優位性を高めるものである。
 以上,本技術は燃料アンモニアの大規模利用により発電部門の脱炭素化に資する有用な技術と判断される。よって,本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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