論文賞

メカノケミカル法を用いたFe置換MWW型ゼオライトの合成

 

大須賀 遼太 殿*1)*3), 田中 銀平 殿*1), 藪下 瑞帆 殿*1), 二宮 翔 殿*1),
真木 祥千子 殿*1), 西堀 麻衣子 殿*1), 蟹江 澄志 殿*1), 村松 淳司 殿*1)*2)
(*1)東北大学,*2)(国研)科学技術振興機構-CREST)
(所属は論文発表時)

 ゼオライトは,その形状選択性だけでなく,多様な触媒活性点や高い熱安定性をもつことから,石油化学,精密化学,環境化学の分野で広く利用されている。鉄を含むMWW型ゼオライトは,アンモニアによる窒素酸化物の選択的触媒還元,亜酸化窒素分解,グリセリンの酸化的脱水素など,優れた触媒として機能することが近年報告され注目を集めている。金属を骨格内に有するメタロシリケートを合成する上で,触媒活性点となる金属種を骨格内に均一導入することは触媒活性の向上に繋がる。鉄は,ナトリウムイオンが配位したゼオライトへのイオン交換や,シリカと鉄化合物との直接水熱合成によりゼオライトへ導入されてきた。しかしながら既存の合成法では,骨格への導入量制限に伴う鉄の骨格外への析出,およびその鉄種の凝集が課題であった。
 本論文で著者らは,メカノケミカル反応と水熱処理を組み合わせることで,既存法では均質かつ安定的に導入困難な鉄種を骨格内へ均質に分布させたMWW型ゼオライトの合成が可能となることを見出した。著者らが見出した骨格内へ鉄種を均質に分布させる主要な機構として,シリカとα-オキシ水酸化鉄のメカノケミカル反応が注目される。本反応により,4配位の鉄がシリカネットワークに導入された非晶質複合酸化物が得られることを,著者らは示している。さらには,この非晶質酸化物を前駆体として水熱処理して得られた鉄含有MWW型ゼオライトでは,既報の水熱処理のみで合成したゼオライトと比較し鉄含有量が多いにもかかわらず,骨格外の鉄が大幅に減少することを,著者らは種々の分光学的手法およびアンモニア昇温脱離/水素昇温還元法により明らかにした。また,ゼオライト骨格内に鉄種を均質に導入できる本手法により,MWW型ゼオライトに従来よりも多様な酸強度を付与することが可能となることも報告されている。
 以上のように,本論文で得られた知見は,MWW型ゼオライトのみならず様々な骨格構造を有するゼオライト合成へ展開が期待でき,ヘテロ元素含有新規ゼオライト触媒の開発に寄与する意義のある成果であり,本研究分野における大きな貢献と言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 65, (2), 67 (2022).
*3)(現在)北海道大学

 

表彰2022年度表彰受賞者一覧|ページへ