論文賞
Y2O3系触媒を用いた均一系塩基フリー条件下でのグルコースからの乳酸合成
畑 大地 殿*1), 相原 健司 殿*1), 三浦 大樹 殿*1)*2), 宍戸 哲也 殿*1)*2)
(*1)東京都立大学,*2)京都大学-ESICB)
(*1)東京都立大学,*2)京都大学-ESICB)
限りある化石資源の有効利用の観点から,再生可能なバイオマスを用いた代替燃料や化学品の製造技術の開発が進められている。特に,乳酸は糖由来の化学物質であり,生分解性ポリエステルやポリ乳酸の原料として利用可能であるほか,医薬品・食品・洗剤などの産業においても利用用途があるなど,バイオマス由来製品の一つとして注目されている。しかし,従来の乳酸製造法であるグルコースとスクロースのバイオ発酵手法では生産量が限られる。また,同法では高価な酵素触媒が必要であり,廃棄物が多く,さらには分離コストがかかる,など多くの欠点を有する。一方で,もう一つの従来法であるアセトアルデヒドからの乳酸製造法においては,有毒なシアン化水素や一酸化炭素を高温高圧で使用する必要があるなどの懸念点を有する。これらの背景から現在,環境調和的で効率的に乳酸を製造するための検討が行われている。
本論文ではグルコースが異性化,アルドール縮合,脱水,ヒドリドシフトを段階的に経て乳酸に至る反応経路に着目し,効率的に多段階反応を進行させるための触媒検討が行われている。筆者らは,様々な金属酸化物触媒を用いて各反応段階における触媒性能評価や反応メカニズムの検討を行っている。また,各反応におけるその生成物の分析や構造解析を詳細に検討している。その結果,著者らは,検討を行った金属酸化物触媒のうち,酸化イットリウムが本反応の触媒として特に優れた性能を示すことを見出している。シリカを担体とした酸化イットリウム触媒を用いることで,従来の均一系塩基触媒で必要とされた強塩基の添加なしに,高収率で乳酸を得ることに成功している。さらに,触媒の構造と反応機構との相関性議論から,高分散担持された水酸化イットリウムがメチルグリオキサールからの乳酸生成反応に対してブレンステッド塩基として働くことで,乳酸収率が向上したことも明らかにしている。グルコースから乳酸を製造する多段階反応の系統的な触媒検討は従来報告がなく,本論文の成果は乳酸製造のための触媒設計に重要な指針を与えるものと認められる。
以上のように,本研究で得られた知見は,バイオマスから化学品を製造する新たな手法として意義のある成果であり,本研究分野における貢献も大きいと考える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。
[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 64, (5), 280 (2021)
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