学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]
石油精製のための担持金属触媒・触媒マトリックスの調製法と機能に関する基礎的研究
石原 篤 殿(三重大学大学院工学研究科 教授)
石原氏は,石油精製分野における様々なプロセスに対して有効な担持金属触媒および触媒マトリックスの調製法と機能に関する詳細な研究に取り組み,担持金属触媒の活性の向上を図るとともに,キュリーポイントパイロライザー法の適用による触媒活性の迅速評価法を開発した。また,一連の基礎学術的な研究において,詳細な触媒反応メカニズム解明に従事するなど,当該分野の進展に貢献する数多くの新規で重要な成果を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
接触分解触媒に関する研究では,石原氏が独自に開発した技術である「三層階層構造(ミクロ-メソ-メソ多孔構造)触媒マトリックス調製法」が特徴として挙げられる。実用触媒プロセスで用いられるバインダーによるマトリックス効果については,学術研究による機能解明がこれまで十分とは言えなかった。石原氏はこのマトリックス部分にメソ孔を形成させ,反応物の拡散を向上させ,活性の大幅な向上に寄与する事象を明らかにした。添加物を加えることでさらに大きなメソ孔をもつ三層マトリックス触媒を調製し,構造-活性相関に関わる研究を深化させた。また,触媒評価法として適用したキュリーポイントパイロライザー法により,新規開発触媒の極めて短時間での活性評価を実現している。論文の被引用件数からも,この技術開発が本分野において重要な知見を与えるものと評価することができる。 水素化分解触媒に関する研究では,ゼオライトとアルミナの複合化担体に担持したモリブデン系触媒と白金触媒を組み合わせた触媒研究に着目し,バイオマス由来の油脂の水素化分解において,芳香族と水素を同時かつ選択的に得る環化脱水素化分解を提案している。特に,脂肪酸メチルエステル(FAME)利用による液体燃料化により,6〜7割の液体燃料収率を示す実験事実を提示し,今後のカーボンニュートラル社会の実現に大いに寄与する触媒技術として期待される。
接触改質触媒に関する研究では,亜鉛またはガリウム交換ゼオライトとアルミナ(マトリックス)を複合化させた触媒を調製し,アルミナの触媒作用効果によってゼオライト添加量を減じることに成功している。また,ベンゼン,トルエン,キシレン(BTX)生成メカニズムの解明に至っている。
以上のように,石原氏は,接触分解,水素化分解,接触改質,それぞれの重要な石油精製触媒プロセスに対して高い機能をもつ多孔体複合化触媒の創製において独自成果を挙げた。基礎的な研究成果から触媒メカニズムの解明について,精力的な研究活動を展開してきており,石油精製と触媒化学の両分野において学術的発展に大きく貢献した。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
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