奨励賞(千代田化工建設賞)(学術部門)

触媒前駆体構造に着目した二酸化炭素水素化によるメタノール合成用触媒の創製

 

多田 昌平 殿(茨城大学大学院理工学研究科 助教)

 多田氏は,二酸化炭素の水素化反応により基幹化成品であるメタノールを効率良く製造する固体触媒の開発に取り組み,高活性なジルコニア担持銅触媒およびスピネル型マグネシウムアルミネート担持銅触媒を見出し,多数の優れた業績を挙げた。
 二酸化炭素の水素化によるメタノール合成は,二酸化炭素の再資源化に大きく貢献しうる重要な技術である。この反応ではメタノールの逐次分解による一酸化炭素生成が起こることで選択性が低下することが問題の一因となっている。多田氏は非晶質ジルコニア担持銅触媒が高いメタノール選択率を示すことを世界に先駆けて報告した。この高選択率の要因として,非晶質のジルコニアが二酸化炭素を適度に吸着しメタノール生成反応を促進するが,生成物であるメタノールがほとんど吸着しないため,生成物逐次分解反応を抑制できることを見出した。さらに,活性点と考えられる銅-ジルコニア界面サイトを増加させるため触媒調製条件の詳細な検討を行い,銅前駆体や焼成温度を変更することで,平面四配位の銅種が形成されること,およびそれが容易に還元されることで有用な活性点が構築されることを提案した。加えて,スピネル型マグネシウムアルミネートと銅の複合酸化物を前駆体とし,それを還元することで通常よりも格段に小さな微粒子を形成することを見出し,それら銅微粒子がメタノール合成に有効であることを示した。これらの研究成果は触媒の詳細なキャラクタリゼーションを行うことで達成されており,高いメタノール合成能を有する触媒の開発指針につなげた。
 以上のように,多田氏は,二酸化炭素水素化によるメタノール合成に関して,高選択性を示す新規銅系触媒を見出し,触媒調製条件および反応機構を詳細に検討し,触媒技術開発に新たな展望を与えており,二酸化炭素転換技術の発展に大きく貢献するものと期待される。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。

 

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