【奨励賞】(コスモ石油賞)(学術部門)
メタン水蒸気改質用光触媒およびコバルト系FT合成触媒の開発
志村 勝也 殿((国研)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 主任研究員)
志村氏は,石油代替資源開発および地球温暖化抑制に不可欠なメタン活性化技術ならびに合成ガス転換技術開発に取り組み,特に光触媒を用いたメタンの低温水蒸気改質触媒および貴金属無添加のコバルト系Fischer-Tropsch(FT)合成触媒の開発において,多数の優れた業績を挙げた。
メタンは最も安定な炭化水素であるため,化学品や液体燃料への変換(Gas-To-Liquid, GTL)は容易ではない。工業的には担持金属系触媒を用いて700〜900℃程度までの高温でメタンと水蒸気から合成ガスを製造している。より温和な条件でのメタン転換プロセスは大いに期待されている。志村氏は,室温でのメタンの水蒸気改質反応において,白金-ナトリウム-タンタル-ランタン系半導体光触媒を開発し,量子収率,水素生成速度,メタン転化率などの触媒性能指標において世界最高レベルを達成した。さらに,光触媒の活性支配因子を解明し,その触媒反応機構を明らかにした。
GTLプロセス後半の鍵であるFT合成において,合成ガスから軽油を製造する工業プラントではコバルト系触媒が広く使われている。コバルト系触媒の性能向上のため白金,レニウムなどの貴金属や希少金属の助触媒としての添加が多用されてきた。志村氏は,コバルト系触媒の担体効果,コバルト金属粒子の分散性と電子状態効果を精密に制御し,安定した活性を有する貴金属フリーなコバルト系触媒を開発し,液体燃料油(C5+炭化水素)の選択率を向上させた。
以上のように,志村氏は,温和な条件下におけるメタンから合成ガスの製造に関して,半導体光触媒によるメタンの活性化という新しい研究領域を開拓した。合成ガスからのFT合成では実用化されやすい触媒技術開発に新たな展望を与えており,C1化学分野の発展に大きく貢献するものと期待される。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。
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