技術進歩賞

溶剤脱れき,重油脱硫,および重油流動接触分解を組み合わせた重質油処理技術の開発

 

ENEOS株式会社 殿

 本技術は,重質油を溶剤脱れきした脱れき油(DAO)を重油脱硫装置(RDS)で脱硫後,残油流動接触分解装置(RFCC)で分解することで,70 %を超える減圧残油を安定的に高付加価値化するプロセスである。
 石油のノーブルユースを進める上で,重質油処理は重要である。しかし,重質油にはアスファルテンが多く含まれており,そのアスファルテンによる脱硫触媒の劣化が重質油処理の障壁となっていた。それを克服するため,ENEOS(株)では,溶剤脱れき装置によるアスファルテン除去技術に着目し,DAOと常圧残油(AR)をRDSで混合処理するという新たな方式を採用した。
 技術開発の過程において,DAOをRDSの従来型AR脱硫触媒システムで処理すると,劣化要因であるアスファルテンを含まないにもかかわらず,1年間運転を継続できないことが判明した。そこで,DAOの詳細解析による原因究明を行った結果,DAOは,相対的に分子サイズが小さく脱メタルされやすいメタル分の比率が高いため,触媒細孔入り口付近で脱メタルされて細孔閉塞を促進してしまうことを突き止めた。この対応策として,原料油中のメタル分の構成に応じて,複数の脱メタル触媒を組み合わせる技術を確立した。
 また,RFCCの性能低下も課題となっていた。この原因はRDS生成油には窒素分が多く含まれているためで,詳細分析の結果,DAOはARよりも脱窒素し難いことを明らかにした。対応策として,RDSの触媒活性点の配位不飽和サイト量を制御することで,脱窒素活性に優れた触媒を開発した。
 さらに,DAOとARの混合処理では,RDS装置の反応塔内で差圧が増大する問題が生じた。検討の結果,原料油の相溶性悪化により,大量の重質パラフィンと鉄がきょう雑物として反応塔内に析出・堆積し,差圧を増大させることを突き止めた。この知見をもとに,新たな差圧予測シミュレーターを構築した。差圧予測シミュレーターと寿命予測シミュレーターを活用することで,DAO処理に特化した新たな触媒システムを設計した。
 以上の通り本技術開発では,RDSでのDAO処理により生じたRDS触媒の寿命低下,RDS反応塔の差圧上昇,RFCCの性能低下という問題に対して,詳細分析等によりそれぞれ原因を究明し,その知見に基づいて触媒の改良やシミュレーターの開発を行い,最終的にDAO処理に特化した新たなRDS触媒システムを構築した。この新触媒システムは,2019年6月から実装置による商業運転で使用され,RDS装置の1年間の安定運転と,RFCCにおける大幅な転化率の向上を実現している。
 本開発技術は,重質な原油を処理しながら,1年間安定に運転可能で,ボトム分解率を向上させるものであり,国内製油所の競争力強化に大きく貢献する。加えて,海外への展開も可能な技術である。よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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