論文賞

溶融LiCl-KClとCaH2還元剤を用いたNiZn金属間化合物ナノ粉末の低温合成

 

小林 靖和 殿*1), 宗宮 穣 殿*2), 多田 昌平 殿*3), 菊地 隆司 殿*4)
(*1)(国研)産業技術総合研究所,*2)成蹊大学,*3)茨城大学,*4)東京大学)

 水素化反応は,石油化学産業で中間化合物を生成するために使用される重要なプロセスの1つであり,長い間Pd系触媒が使用されてきた。近年,構成金属の低コスト化などの観点から,魅力的な代替品としてNiZn金属間化合物触媒が注目されている。しかし,結晶性の良いNiZn金属間化合物の取得には,前駆体であるZnOが難還元性のため,高温(500〜750℃)での処理が必要となるが,この処理でもNiZn金属間化合物の単一相を得るのは困難で,NiZnとNiが共存する報告例が多いのが現状である。 筆者らは,NiとZnO,Ni3ZnC を前駆体とし,LiCl-KCl混合溶融塩中でCaH2還元剤を用いることで,360℃という低温での単一相のNiZn金属間化合物の合成に成功している。特に,溶融塩中で合成することで,難還元性酸化物の還元を阻害する酸素・水分がない最適な合成条件を見い出した。また,得られた粉末のXRD測定の結果より,不純物相は観測されずNiZn金属間化合物の単一相のみが観測され,水素流通下あるいはアルゴン流通下の両合成条件において単一相のNiZnが得られたことから,CaH2が還元剤として作用していることが示唆された。さらに,SEM測定の結果よりナノサイズ粒子の存在が明らかとなり,EDSおよびXPS測定より試料に含まれるCaH2およびLiCl,KClに由来する不純物量は極少量で,NH4Cl水溶液によるポスト洗浄処理によりこれら不純物が適切に除去されることが示唆された。 以上のことから,筆者らは,NiとZnO,Ni3ZnCを前駆体とし,LiCl-KCl混合溶融塩中でCaH2を還元剤とすることで,ZnOの熱力学的安定性のため,通常の水素還元処理では不可能な360℃という低温条件下でのNiZn金属間化合物の単一相の合成に成功した。このような斬新な手法により,より低温での金属間化合物の単一相の合成技術を確立したことは,本研究分野のみならず,石油化学分野の発展における大きな貢献と言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 63, (6), 380 (2020).

 

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