論文賞

リモナイト触媒を用いたスラリー型ハイドロクラッキングの反応モデル

 

川井 英司 殿, 藤井 重孝 殿, 佐藤 秀紀 殿, 和田 幸隆 殿, 武田 大 殿
(千代田化工建設(株))

 ハイドロクラッキングプロセスは製油所内での減圧残油(VR)のアップグレードや上流の油井での重質原油アップグレードなどへ適用される重要な技術である。本論文は(株)神戸製鋼所と千代田化工建設(株)が,90 %を超える分解率を持つ究極の重質油改質プロセスとして共同開発したKOBELCO SPH(スラリー床水素化分解)プロセスの反応モデルを検討したものである。一般に重質油の水素化分解では,熱分解によって引き起こされるラジカル反応と高分子化合物の重縮合により,分解率が高くなるにつれてスラッジ生成速度が増加する。
 筆者らは将来の商業装置のプロセスシステム構築を目指して,95 wt%を超えるVR分解率,80 wt%を超える油収率,かつスラッジ生成の最小化を達成する最適化された反応条件を見い出した。具体的には,1 L容積のオートクレーブ試験装置を用い,反応時間,触媒リモナイト濃度,反応圧力,および反応温度を変化させ,最適な反応条件を見つけた。さらに,この反応条件を理論化し,将来的なパイロット・商業装置への適用性を拡張するためには,今までにない新しい反応モデルの必要性を指摘した。本論文では,その新しい反応モデルを提案し,試験結果をシミュレートすることで反応モデルの妥当性の検証を行うとともに,将来への課題・展望を述べている。
 本論文では,重質油転化率や製品収率に与える反応時間,反応圧力,触媒量,反応温度等の影響を実験により系統的に求め,速度論的な新しい反応モデルと実験結果が予測可能な実用的なシミュレーションモデルを提案している。具体的には,重質油の分解反応に高分子化と水素化の2つの平衡反応を含めてパラメーターを調整することで,複雑な反応を表現できるシミュレーションモデルが提案できた点が本論文の成果である。複雑な重質油分解反応を表現可能とする新しいスラリー反応モデルの提唱が,本研究分野における大きな貢献と言える。
 よって,本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 63, (4), 184 (2020)

 

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