学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

セルロース・キチンの触媒変換による有用化学品合成に関する先導的研究

 

福岡 淳 殿(北海道大学触媒科学研究所 教授)

 福岡氏は,セルロースの加水分解・加水分解水素化,キチンの解重合に有効な触媒系を見出し,研究領域の流れを形成する先駆的な業績を挙げている。さらに,これらの反応生成物を付加価値の高い化学品へと変換する研究にも取り組み,バイオマス由来有用化学品合成のためのプロセスの構築に寄与する顕著な業績を挙げている。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 セルロースの加水分解水素化において,担持白金あるいはルテニウム触媒を用いると,グルコースを経由してソルビトールが高い収率で得られることを見出した。反応速度論解析を行い,これらの固体触媒がセルロースを加水分解できることを示した。この成果は世界初の固体触媒によるセルロース分解であることから国内外で注目を集め,同様の研究が行われるきっかけとなった。さらに,ゼオライト触媒を用いたソルビトールの脱水によりイソソルビドを効率的に合成できることも示した。
 弱酸点をもつ活性炭とセルロースを一緒にボールミル処理すると加水分解が促進され,高い収率でグルコースが得られることを見出した。これは,セルロースの加水分解には強酸が必要であるという常識を覆すものであった。セルロースは炭素の疎水性表面に吸着し,弱酸点上で β-1,4-グリコシド結合が加水分解されるという, 新しい反応機構を提案した。この触媒を木質バイオマス変換に適用すると,セルロース部分からグルコースを,ヘミセルロース部分からキシロースを合成でき,リグニンは触媒原料としてバイオマスを無駄なく利用できることを示した。さらに,セミフロー式反応器を用いると,セルロースから植物の病害耐性や成長を促進するバイオスティミュラントとして注目されている水溶性セロオリゴ糖(3〜6糖)を選択的に合成できることを示した。
 キチンはセルロースに次ぐ第二の資源量をもつバイオマスであり,窒素を含むという特徴をもつ。しかし,キチンはセルロース以上に分解が困難であるが,キチンの資源化が可能になれば,含窒素化学品製造の環境負荷低減に資するとともに,窒素の循環利用も期待される。ボールミルと硫酸を用いたメカノキャタリシスにより,キチンのグリコシド結合のみを選択的に切断させ,単量体N-アセチルグルコサミン(NAG)を効率的に合成できることを示した。さらに,NAGからの有機窒素化合物の合成に取り組み,二環縮合アミドアルコール,モノエタノールアミン,グリシン誘導体の合成に成功した。
 以上のように,福岡氏は,資源量の大きさから利用が望まれているセルロース・キチンなどのバイオマスの分解に有効な触媒を見出すとともに,新しい反応機構や触媒機能の提案,得られた生成物の高付加価値化学品への変換法の開発において顕著な業績を挙げている。これらの研究成果は,バイオマス変換に関わる多くの研究者に大きな影響を与えており,化石資源を用いない化学品製造技術の開発につながることが大いに期待される。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

表彰2021年度表彰受賞者一覧|ページへ