論文賞

劣化アスファルトに対する水熱分解の回復効果

 

赤津 憲吾 殿,加納 陽輔 殿,秋葉 正一 殿
(日本大学大学院生産工学研究科)

 加熱アスファルト混合物を用いたアスファルト舗装は施工性や走り心地の良さから広く普及している。現行の混合物は,舗装工事により発生する既設舗装材を機械破砕および分級により粒状化し,アスファルトコンクリート再生骨材に再資源化している。しかし,舗装に用いる資材に関して,環境保全の観点から新規骨材の生産が,経済的観点から新規アスファルトの供給がそれぞれ縮小されている。そのため,再生骨材の需要はますます増加するとともに,劣化と再生を複数回繰り返した再生骨材は今後増えることが予想されている。しかし,劣化と再生を繰り返したアスファルトは酸化劣化が蓄積し,再生混合物は疲労ひび割れ抵抗性が低下する可能性が指摘されている。
 筆者らは,高温高圧水による水熱分解法に着目して劣化アスファルトの再生を検討し,物理的性状,化学的性状および動的粘弾性状から,劣化したアスファルトに対して水熱分解法を適用した後のアスファルトの回復効果を確認した。その結果,反応温度350〜360 ℃,反応時間15分程度の水熱分解後のアスファルトは,針入度,軟化点,伸度の物理的性状において,大きな回復効果を示した。また,異なる構成成分比率のアスファルトにおいても,水熱分解法により物理的性状が同程度の回復傾向を示した。化学的性状においては,水熱分解後の再生アスファルトは,水熱分解法の有する溶媒,熱分解,加水分解の相互作用により,劣化によって蓄積した高分子が低分子化し,従来の再生方法では減少しなかった酸化度合いが減少することを確認した。さらに,動的粘弾性状において,水熱分解後の再生アスファルトは疲労ひび割れ抵抗性および耐流動性が向上し,再生加熱アスファルト混合物への利用の可能性が示唆された。
 本論文で報告されている研究結果は,化学的見地から興味深いだけでなく,水熱分解法による劣化アスファルトの再生に関する有用な知見であり,本研究分野における大きな貢献と言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 63, (2), 79 (2020).

 

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