論文賞

フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析による重質油成分のコア構造解析

 

寺谷 彰悟 殿*1), *3),片野 恵太 殿*1),田中 隆三 殿*1), *4),中村 勉 殿*1),*5),猪股 宏 殿*2)
(*1) (一財)石油エネルギー技術センター,*2)東北大学大学院工学研究科)
(上記所属は論文発表時のものです)

 原油に含まれる常圧残油や減圧残油等の重質留分は,石油精製にとって重要な直接脱硫装置や残油接触分解装置の原料油であり,効率的に脱硫や軽質油に転換することによって,原油の高度利用を図ってきている。また,重質留分中に含まれるアスファルテン分は,凝集析出によって発生したスラッジが配管や熱交換器閉塞等のトラブル原因となるため,原油生産の場である油田や石油製品製造の場である製油所にとって課題となっている。このような背景から重質留分中に含まれる成分の分子レベルでの構造・組成・反応性を詳細に解析できる分子反応モデリング技術が熱望されてきた。特に,重質留分中には数万種類以上含まれている個々の分子の構造・組成を解明する詳細組成解析技術は分子反応モデリングにとって基盤となる技術であり,早期の確立が望まれている。
 筆者らは,重質留分の分画法とフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR MS)を組み合わせ,中東系減圧残油中に含まれる分子構造を解析した。さらに,3環以上の芳香族分(3A+)とアスファルテン分(As)について,衝突誘導解離(CID)法によるフラグメンテーションをFT-ICR MSと組み合わせた分析(CID FT-ICR MS)を実施した。CID前後の二重結合等量値(DBE)分布の変化からコア構造間の結合が解離していることが確認され,3A+フラクション,Asフラクションともに分子内に複数のコア構造が存在する群島型分子が存在することが示唆された。また,筆者らが提案した方法を用いてコア構造の推定を行ったところ,CID FT-ICR MSで得られた各フラグメントイオンに対してコア構造を帰属することができた。特に,Asフラクションで推定されたコア構造は既往の研究において提案されたアスファルト分子中に含まれるコア構造と類似で,本法の妥当性を示唆したものと結論した。
 以上のことから,筆者らはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析により,重質留分中の分子構造として重要なコア構造を推定する技術を確立したことは,本研究分野の発展における大きな貢献と言える。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 62, (6), 272 (2019)
*3)(現在)日揮ホールディングス(株)
*4)(現在)出光興産(株)
*5)(現在)ENEOS(株)

 

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