技術進歩賞
ステンレス鋼用高性能塩素フリープレス油の開発
髙木 智宏 殿(JXTGエネルギー(株)潤滑油カンパニー チーフスタッフ)
柴田 潤一 殿(JXTGエネルギー(株)潤滑油カンパニー 担当マネージャー)
北村 憲彦 殿(名古屋工業大学電気・機械工学科 教授)
村尾 卓児 殿((株)野口製作所 品質保証部 部長代理)
柴田 潤一 殿(JXTGエネルギー(株)潤滑油カンパニー 担当マネージャー)
北村 憲彦 殿(名古屋工業大学電気・機械工学科 教授)
村尾 卓児 殿((株)野口製作所 品質保証部 部長代理)
本技術は,難加工材の一つであるステンレス鋼の塑性加工において,焼付き防止性能の向上による優れた加工性能を有する塩素フリープレス油に関するものである。塩素系加工油では廃液の焼却処理によるダイオキシンの発生懸念や,特定の塩素化パラフィンに対する発がん性の恐れなど,環境汚染と安全性の観点から塩素フリー化が進められている。しかし,ステンレス鋼等の難加工材では,加工性能の高さから塩素系加工油が多用され塩素フリー化が遅れている。これは塩素系極圧剤の焼付き防止性能が非常に優れており既存技術による塩素フリー加工油では性能不足などの課題があるためである。特に,焼付き防止性能が不十分なため,成型不良や金型寿命の低下によるメンテナンス費用が塩素系加工油に比べ非常に大きいことが要因にある。一方,塩素フリー加工油の開発では有用な実験室評価方法が必要不可欠であるが,実製造ラインでの加工性能と相関性を確認した実験室評価方法が確立されていないことも塩素系加工油の代替が進まない一因にある。
このような現状において,本技術では実験室評価方法の検討を進め,実機試験と高い相関性を有する簡便かつ独創的な実験室評価方法を確立している。これらの実験室評価方法により各種添加剤の性能評価はもとより,摩擦面での被膜の形成機構や組成分析などの潤滑機構の解明を通し,焼付き防止性能向上のための知見蓄積を飛躍的に達成している。その結果,面圧や温度による潤滑条件の違いにより有効な硫黄系極圧剤の種類は異なり,特に厳しい潤滑条件では極性基を持たない硫化オレフィンが熱分解し易く容易に被膜を形成することを見出した。また,炭酸カルシウムを含有するカルシウムスルホネートの添加量最適化により焼付き防止性能の向上に寄与すること,さらに特定のアルキル鎖を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を組み合わせることで,塩素系加工油と同等以上の焼付き防止性能を発揮できることを見出している。
本技術における知見は,国内外で多数発表されていることに加え,2件の国内特許が登録されていることから技術の進歩性が確認できる。本知見により開発された塩素フリープレス油は,使用者での設備や製造工程の変更が不要であり実用性に優れたものである。従来技術の塩素フリープレス油に比べ,金型のメンテナンス費用を大きく抑制し,使用者にとってランニングコストの低減による経済的効果は大きい。既に,開発油は2016年に上市され2018年度の販売数量は2016年度対比で倍増しており着実に市場に受け入れられている。
本技術は,十分に有用性を認めることができ,ステンレス鋼等の難加工材での塩素フリー化に大いに貢献している。
よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。
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