論文賞
原油増進効果に対する炭酸水と炭酸塩岩の相互作用の影響―実験と地化学モデリング―
下河原 麻衣 殿1),2),,Elakneswaran YOGARAJAH 殿2),名和 豊春 殿3),高橋 悟 殿1)
(1) (独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構,2) 北海道大学大学院工学院,3) 北海道大学)
(1) (独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構,2) 北海道大学大学院工学院,3) 北海道大学)
原油増進回収法(EOR)は油田からの原油生産量を最大化させる上で必須の技術である。EOR技術には天然ガスや二酸化炭素を圧入するガス圧入法,水蒸気などを圧入する熱攻法,ポリマーや界面活性剤などを圧入するケミカル攻法などがある。本論文で研究対象としている炭酸水圧入法は二酸化炭素を水に溶解させた炭酸水を炭酸塩岩貯留層に圧入し,炭酸水と岩石との相互作用によって増油効果を図る方法であり,その研究の始まりは1940年代まで遡るEOR技術である。にもかかわらず,炭酸水圧入法における炭酸水と岩石の相互作用とその増油効果への影響については不明な点が多く,炭酸水圧入時の圧入水中のイオンの挙動について精度高く再現できるモデルはこれまで存在しなかった。炭酸水と岩石の相互作用を明らかにすることは炭酸水圧入法の増油メカニズムを理解する上で重要である。
筆者らは炭酸塩岩コアを用い,岩石コアのエイジング,原油の存在の有無,圧入水の種類を変えてコア掃攻試験を行ったところ,排水のpHおよび排水中のカルシウムイオン濃度が増加するとともに,コア掃攻試験前後で岩石の絶対浸透率が増加することを見出した。また,原油の存在下では岩石コアのエイジングの有無が孔隙率,浸透率,イオン濃度および原油回収率に影響することも分かった。
続いて筆者らは,コア掃攻試験での排水のpHおよび排水中のカルシウムイオン濃度を予測する数値計算モデルとして移流反応平衡モデルを提案した。このモデルは,炭酸水による炭酸塩岩の溶解反応を平衡反応として定義した上で,岩石コア内の圧入水の進行方向へのイオンの流れを,セクションごとに区切った岩石コア内をイオンが移動する移流現象として表現している。構築した移流反応平衡モデルによる計算では,コア掃攻試験での各条件における排水のpHおよび排水中のカルシウムイオン濃度を精度よく予測できることを確認した。
以上のように本研究で得られた知見は,炭酸水圧入による増進回収法において,その基礎的なメカニズムの解釈に寄与する意義のある成果であり,本研究分野における大きな貢献と言える。
よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。
[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 62, (1), 19 (2019).
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