学会賞(表彰規程第3条2項に該当するもの)[工業部門]

エチレン三量化触媒を用いた1-ヘキセン製造プロセスの工業化

 

三菱ケミカル(株) 殿

 1-ヘキセンや1-オクテンは直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の共重合モノマー等に使用される石油化学工業における重要な基幹中間体で,近年のメタロセン触媒によるポリエチレンの生産プロセスの拡大に伴い,世界中での需要が増加傾向にある。三菱ケミカル(株)は,エチレン三量化技術を基盤とする1-ヘキセン製造プロセスを開発し,近年工業生産機により実用化に成功した。この手法は,従来のニッケル触媒によるエチレンオリゴマー混合物からの分留による製造法に対し,高活性・高選択率で1-ヘキセンを優先的に与える均一系クロム触媒を用いる製造技術が特徴である。
 三菱ケミカル(株)は,1990年代にエチレン三量化触媒に関する研究開発を精力的に進め,1996年にクロム化合物と2,5-ジメチルピロール,トリエチルアルミニウムおよびハロゲン含有有機化合物からなる均一系触媒を開発した。この触媒は,当時報告されたBriggs触媒に対して1250倍,Phillips触媒に対して3700倍(その後の高活性触媒に対し135倍)の高活性を示し,かつ95 %を超える選択率で1-ヘキセンを優先的に与えた。この触媒技術では,安価なトリエチルアルミニウムを使用する上に,ハロゲン含有有機化合物の添加により活性と選択率をさらに向上させたために,触媒コストの低減化に加えて,生成物からの精留工程が不要となった。さらに,エチレン存在下で触媒原料各成分を反応器内で接触させて触媒を系内調製するプロセスを採用し,触媒調製設備や煩雑な触媒調製工程が不要で,高活性のため製造時の触媒コストが無視できる程度までの低減化を達成している。このエチレン三量化触媒は,他の三量化触媒よりも特にポリマー(PE)の副生が0.1 %未満と著しく抑制されるために,製造プラント内の閉塞等の懸念が少なくなる。さらに,副生する微量のポリマーを反応溶媒に溶解させて反応器内での付着・堆積を防止するプロセス開発を確立し,長期安定操業を可能とした。この触媒開発を基盤とした,触媒調製設備のいらない,生成物の精製工程が簡略化された製造プロセスにより,生産機の建設費が大幅に低減化した。製造にかかるコストとエネルギー消費量を低減化させ,環境低負荷型のプロセス開発・実用化に成功した。
 今回開発した高活性・高選択的な均一系エチレン三量化触媒を用いる1-ヘキセン製造技術は,競合技術に対して圧倒的な技術優位性を示し,21世紀に入ってからますます需要の高い選択的なオリゴメリゼーション技術分野(1-ヘキセンおよび1-オクテン製造技術)の発展に大きな影響を与えた。
 よって,本業績は本会表彰規程第3条2項に該当するものと認められる。

 

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