学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]
ナノ構造体を活用する触媒反応場設計と環境調和型反応への利用
山下 弘巳 殿(大阪大学大学院工学研究科 教授)
山下氏は,ナノ構造体を活用して触媒反応場を設計することで,様々な環境調和型反応を高効率で進行させる触媒の開発研究に取り組み多大な成果を挙げている。具体的には,ゼオライト,メソポーラスシリカ,金属有機構造体(MOF)などのナノ構造体の細孔や骨格に金属イオン,金属錯体,ナノ粒子などを導入した触媒を調製した。そして,これらの触媒が有機汚染物質の光分解,水素キャリア分子からの水素生成,過酸化水素合成,二酸化炭素還元などの反応に高活性を示すことを見出した。さらに,キャラクタリゼーションや計算化学などから,その高性能がナノ構造体を活用した反応場構築により発現していることを明らかにした。
ゼオライトやメソポーラスシリカの細孔や骨格内にTi4+,V5+,Cr6+,Mo6+,W6+などの金属イオンを孤立状態で保持した触媒は,従来の半導体光触媒と異なる特性を示し,「シングルサイト光触媒」と呼ばれる触媒系で,山下氏はこの触媒系を世界に先駆けて開発した。具体的な触媒反応としては,二酸化炭素の水による光還元,NOx の直接的な光分解などが挙げられる。また,Pt2+,Ir3+,Rh3+,Ru2+などを含む光応答性金属錯体をナノ細孔内に固定化することでシングルサイト光触媒を調製し,水からの水素発生,スチレン類の酸化反応などに対して有効な不均一系触媒となること,再使用性などで優位性を持つことなどを示した。さらに,多孔中空球型構造,コア・シェル型構造などのナノ構造体内にTiO2ナノ粒子を導入することで,TiO2周辺に反応物質が濃縮され,有機物の酸化分解反応の光触媒活性を向上させることを示した。シングルサイト光触媒の応用例として,Ti4+を含むメソポーラスシリカSBA-15などの細孔内に,サイズや形状が揃ったAgなどの金属ナノ粒子が紫外光やマイクロ波の照射で合成できることも見出している。
山下氏は,上記のほか,ナノ空間内で金属粒子のサイズ・形状を制御することで,可視光照射下で表面プラズモン共鳴により高機能を発揮する「プラズモン触媒」を開発した。具体的には,メソポーラスシリカの細孔内に固定化されたAg微粒子プラズモン触媒が,可視光照射下で,水素キャリア分子であるアンモニアボランからの水素生成を顕著に促進することを見出している。また,プラズモン触媒の主成分は貴金属であることが主流であるのに対して,主成分をMoとした水素ドープ酸素欠損型モリブデン薄膜状酸化物プラズモン触媒を開発した。そして,このプラズモン触媒がアンモニアボランからの水素生成やスルホキシドの水素化脱酸素反応を効率的に進行させることを明らかにした。
以上に述べたように,山下氏は,ナノ構造体に触媒活性点を導入した特徴的な触媒反応場を構築し,シングルサイト光触媒やプラズモン触媒などで世界をリードする成果を挙げている。
よって,本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。
|表彰|2019年度表彰受賞者一覧|ページへ |