論文賞

合成原油の深度水素化処理のための窒素化合物の分離

 

Janchig Narangerel殿*1), 杉本 義一殿((独)産業技術総合研究所)

 オイルシェール,石炭,オイルサンド等から得られる合成原油は,超重質油の有効利用の観点から近年注目されてきている。合成原油は,通常の原油と異なり,窒素,硫黄などのヘテロ元素を多く含むことから,サルファーフリー化に対応するクリーン燃料を製造するためには,過酷な水素化処理条件が必要となる。特に,塩基性の窒素化合物は,触媒表面に強く吸着するため,水素化脱硫反応を著しく阻害する。したがって,合成原油からサルファーフリー燃料を製造する場合,窒素化合物の効率的な除去法が必要とされていた。
  この課題を解決するため,本論文ではCuCl2・2H2Oを用いて合成原油から窒素化合物を除去する前処理法を検討している。通常,石油留分から窒素化合物を除去する場合,シリカなどの吸着剤を用いる手法が行われるが,合成原油の場合は窒素化合物が数千ppmと極めて多いため,吸着容量が不足し適用が困難である。そこで著者らは,CuCl2・2H2Oが窒素化合物と錯体を形成する現象を利用して,合成原油から窒素化合物を抽出除去する前処理法を検討した。
  本論文では,まずモデル燃料を用いて各種窒素化合物の抽出効率を解析し,続いて実際の合成原油を用いて窒素化合物の抽出除去を行っている。合成原油からの窒素化合物の除去については,含有量の低減だけでなく,GC/NPD(nitrogen phosphorus detection),GC/MSを用いて化合物ごとの抽出挙動についても詳細に検討している。そして,本法により前処理された合成原油を水素化処理し,脱硫,脱窒素がより効果的に進行することを見出した。さらに,抽出に使用したCuCl2・2H2Oが,CH2Cl2と水を用いて再生可能であることも明らかにした。
  以上のように,本論文で示された除去法は,合成原油など窒素化合物を多量に含む原料油からサルファーフリー燃料を製造する際の前処理技術として有用であり,今後の超重質油の有効利用につながる技術と期待できる。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 51, (3), 165(2008).

*1)(現在)Central Laboratory for Coal Research, MONGOLIA

 

表彰平成21年度表彰受賞者一覧|ページへ