平成19年度 経営情報部会 WG1活動成果報告

WG1 災害時の連絡方法、バックアップ方法、通信等のリスクに関する調査

参加メンバー: 村上大寿、山田明伸(出光興産) 小池竜太、久田 圭(コスモ石油)、白川義之(ジャパンエナジー)、栃原平祐(東洋エンジニアリング)、加藤千太郎、平井隆詞(日揮情報システム)、鈴木信良(ハネウェルジャパン)、小杉光春(山武)、武藤真一(横河電機)(敬称略、企業50音順)

*メンバーの所属および下記成果報告書は2008年3月現在のものです。

1. はじめに

 大量の危険物を取り扱い、その製品が民間生活へ大きな影響力を持つ石油業界では、ある想定に基づいた災害対策を策定し、被災時に備えることは、企業の社会的責任と思われる。新技術導入により製油所の自動化や省力化が進み、地震、台風等による災害以外のリスクも考えられる昨今、これまでの経験に基づく現状の災害対策が有効かどうかには少なからず疑問がある。そこで、経営情報部会で決定された活動ワーキングテーマに示される「災害時の連絡方法、バックアップ方法、通信等のリスクの考え方」について、調査活動の目的として、次の4点を決定した。

2. 災害の想定について

 災害は地震、台風、洪水といった天災から、テロ等の人災まで考慮すると、発生日時、発生場所、規模によって被害状況は大きく異なる。WG内でもどのような災害を想定するかについて委員の見解が分かれたが、今回の調査活動では、内閣府の想定する「首都圏にマグニチュード7クラスの直下型地震」を採用することとした。内閣府では、首都の中枢機能の継続確保について目標と対策を挙げており、今回の調査主旨に沿った前提と判断した。現実的な問題としては、内閣府の想定以外もしくは被災範囲によっては業務継続計画(以下、BCP)や災害復旧計画(以下、DRP)に大きな差異が生じるが、本WGでは中核となる情報整理を実施し、業界としての特徴を総括することとした。

3. 石油連盟のガイドライン

 石油連盟では、内閣府の想定を受けて、石油業界各社が個別に調査・検討することと併行して、業界としてのガイドラインを設定している。石油会社から委員が集まり、「石油元売・精製業の情報システム部門における災害対策・復旧計画策定ガイドライン」として、大きく3項目に分類し、以下のとおり総括された。

(1)災害への対応準備等の確認

(2)復旧計画の基本的事項 (3)教育・訓練

4. 石油各社の対応

 石油連盟でのガイドラインについては先行する企業の情報を活用し、業界としての基本方針を定めたものであるため、各社で各項目について個別に方針や対策を定めている。多くの石油会社ではホームページを通じてBCPとDRPに関して発表し、企業としての取組み姿勢を示している。これは他の製造業と比較して、迅速な対応と言えよう。この背景には冒頭示したように大量の危険物を取り扱い、民間生活への影響度の大きい業界であることによる部分が大きいと考える。

5. 関連業界も含めた詳細調査

 本WG委員の構成派石油会社のほかに、エンジニアリング会社、計装会社と石油業界の関連業界からなり、各委員からの詳細情報に基づいて現状と今後の方針について情報収集することとした。従来であれば、アンケートを作成し石油会社に回答していただく方式を採用していたが、以下の理由で、WG内の意見集約のみとすることとした。

5. 1 調査結果(連絡方法)

 災害発生時には従業員の安否確認が企業の責務であり、被害の最小化のための必須条件であることは言うまでもない。従業員の安否確認ができなければ、BCPやDRPも絵に描いた餅となり対策立案や復旧作業を迅速に進めることは不可能である。WG委員各社での安否確認方法を調査したところ、石油会社だけでなく関連企業においても既に安否確認手段が導入されていることが確認できた。主たる手段としてはITベンダーによる携帯メール・電話を利用したサービスが活用されている。災害発生時にITベンダーから一斉通報され、従業員はまず家族も含めた安否連絡を実施し、状況報告のほか、通勤所要時間を連絡するようになっている場合が多い。よほど広域で被災しない限り、携帯電話会社基地局のバックアップが機能するものと思われる。なお携帯電話会社でも災害発生時には、緊急伝言伝達サービスを提供できるようになっている。

5. 2 調査結果(バックアップ方法)

 石油会社とその関連企業では業務遂行上、膨大な情報を取り扱っている。装置の運転に関する操業情報のみならず、調達、物流、販売、経理、人事等の基幹情報等と多岐にわたっている。WG委員各社での、システムと情報(データ)のバックアップ方法を調査したところ、以下の結果を得た。
(1)重要なシステムのハードは冗長化している
(2)基幹システムと操業システムでバックアップ方法に差異はない
(3)システムのプロバイダー側でのバックアップもあり、復旧不可能ということは考えづらい
(4)情報(データ)のバックアップ方式は多様化している

 従来の冗長化・分散管理のコスト面や運用面の問題を解消するために、標準以上の耐震設計構造のデータセンターでの集中管理方式も存在することがわかった。

5. 3 調査結果(通信)

 事業所間の通信や外部へのネットワークアクセス経路についは、キャリア(通信会社)に依存していることが確認できた。自社用専用回線であったとしても、自社でその回線を維持管理している訳でなく、キャリアに一任している実態がある。通信回線に関しては、石油会社の製油所が位置するコンビナート地区では都市部と異なり、橋や地下ケーブル等の利用により、被災時にリスクヘッジすることは容易ではない側面がある。WG委員の勤務する企業では、個別に無線回線や衛星回線を確保しているところもあり、企業によって対応方法には差異が見られる。

図1 地震発生からの流れ

6.被災後の迅速な再開に向けて

6. 1 人員の確保

 5. 1 調査結果(連絡方法)にあるとおり、人員の確保が最優先する。被災状況の確認、復旧方法の検討、実施とそれぞれの段階においても人的組織が形成され、指揮命令系統が整備され、個々の任務を遂行できなければ、業務再開は不可能である。これは、被災場所が本社であっても製油所であっても変わりはない。
 安否確認を含む連絡方法と一部重複するが、人員確保の観点から以下の備えが重要と考える。
(1)事業拠点と従業員の分布状況の危険性把握
(2)役員や防災担当者の居住地、通勤経路、出社可否の判断
(3)従業員が徒歩出勤する際の代替出社場所の検討
(4)帰宅困難者の把握、対応方法
(5)休日、夜間に出社可能な従業員の把握
(6)事業拠点ごとの避難場所を含む防災施設の把握
上記は自社社員を前提として考えたものであるが、復旧工事、作業が必要な場合は関連会社の人員の確保状況を把握し、必要な能力を持った人材を自社および関連会社で迅速に対処することが重要であることは言うまでもない。

6. 2 ハードウエア、ソフトウエア、電力

 業務の継続・復旧には人材の確保に次いで、コンピュータシステムの運用が不可欠である。データセンター、サーバールーム、制御室は耐震設計を満足しているため、ハードウエアの破損は考えづらい。ハードウエアについては、レンタル等による代替も可能であり、予備機も含めた冗長化については各社対応が進んでいる。
 電力については、過去の「阪神・淡路大地震」では、水道、ガスに比べて、比較的早い時期に復旧している(表1参照)。ビルの自家発電設備についても、重要な情報確保のためには検討の必要があると思われる。なお電力およびシステムの復旧後は、迅速な情報公開に努め、風評被害を最小限に食い止めることについて考慮し対応することが望ましい。

表1. 阪神・淡路大震災におけるライフラインの復旧に要した期間
 50%復旧90%復旧
電力半日程度約2日
水道10日強40日強
都市ガス20日強70日強

6. 3 業界のアキレス腱

 中越沖地震では、多くの自動車会社が特殊な部品を被災地域にある企業に依存していたため、国内の工場が操業停止するに至った。石油業界でも同様の問題があるかどうかについて考察してみた。製品の特性という視点からは、個性や流行によって売上を左右する自動車業界と違い、石油製品はほぼ同一の製品を国内の三十箇所弱の製油所で生産している。したがってある地区の製油所が操業停止になったとしても、他の製油所からの製品供給は可能と考えられる。また近年、物流コスト削減の観点から、製品販売に関する提携関係強化の傾向が見られることも、ダメージを抑える効果があると思われる。自動車業界のように特殊な部品に依存するようなことはなく、関連機器、部品等の在庫も各社とメーカーで管理されている。
 ただし大型機器や高圧機器の破損の場合、取り替えではなく、新規作製が必要なケースも想定される。この場合は、設計、施工期間を考慮すると、一年を越える操業停止は避けられない。製油所の精製装置が大きな被害を受けるような場合は、大量の危険物を取り扱っていることもあり、復旧へは長期間を要することとなる。

7.これから考慮すべき業界への提言

 被害を最小限に食い止めるための最新技術情報を以下のとおり、とりまとめる。
(1)安全を確保するための状況確認技術

(2)対策本部等の情報共有手段 (3)災害時の状況把握  内閣府の想定にある情報システム系の被害に関してはBCP、DRPとも石油業界は検討が進んでいるが、実際には想定どおりにならないとの視点から、いくつかの点で追加検討が必要ではないかと考える。ここでは地震以外のリスクとして、停電と新型インフルエンザについて簡単に触れておくこととしたい。

7. 1 停 電

 建造物の耐震性は高まっているが、落雷や何らかの理由による停電に関しては、システムダウン以外にも配慮すべきである。高層ビルや地下では、照明や空調の継続にも限界があり、エレベーター等の移動手段も含めて、再考していただきたい。情報系のハードウエアは無停電対応にしてあったとしても、長時間の停電により、空調が停止した場合は室温が急上昇し、機器へ損傷を与える懸念も考えられる。

7. 2 新型インフルエンザ

 石油業界では、地震以外について、厚生労働省の「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」に基づいて各社が「新型インフルエンザ対策に関する行動計画」をホームページで発表している。欧米に比べるとワクチンの保有量・生産速度で劣る日本で、近年増加傾向にある鳥インフルエンザから派生した新型インフルエンザが流行した場合の対応である。新型インフルエンザに関してはインフラの被害は皆無であるが、人的被害に関して甚大になることが予想される。これまで、地震を前提とした対応の中でも、人員確保が重要であることは繰り返し述べてきた。インフルエンザに関する基礎情報の理解と、発生時の情報収集、伝染防止対応を徹底することで、指揮命令系統、執務体制の継続を目指すべきである。

8.まとめ

 「災害時の連絡方法、バックアップ方法、通信等のリスクの考え方」については、ある時点で対策を検討したとしても、様々な前提条件をカバーできるものではない。企業として、事業所の役割分担や組織の変更によって、また技術面の発展も含めて、継続的に見直しを実施することが望ましい。

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