平成17年度 経営情報部会 WG2活動成果報告

WG2 システム再構築における問題と対策

参加メンバー: 笠原幸男(横河電機)、木元正孝(新日本石油)、原田寿人(コスモ石油)、古谷 俊明(昭和シェル石油)、吉村幸治(東洋エンジニアリング)(敬称略、50音順)

*メンバーの所属および下記成果報告書は2006年3月現在のものです。

1. 目的

 2000年問題を機に、石油業界各社ともメインフレームによるレガシー・システムからクライアントサーバー型システムへの移行がほぼ完了し、現在はそのシステムの効率的な運用と、バージョンアップ、再構築というのが大きなテーマとなってきていると思われる。<
 本WGでは、システムのパッケージ化・人員の合理化、社内インフラが大きく変わった後のシステムの運用、バージョンアップ/再構築の課題とその対策を探ることとした。
今回は、石油会社へ上記に関するアンケートを依頼し、その回答を集計して、問題点、課題、対策を探ってみることにした。

2. アンケート内容

 今回、以下2種類のアンケートを各社に送り、回答を集計した。

  1. 「既存システムの状況・問題点」 
  2. 「システム再構築の問題とその対応」

2.1 既存システムの状況・問題点

 石油会社の様々な業務を本社は10、製油所は6の領域に大別した。製油所業務については個々の業務領域をさらに詳細分類し、ソフトウエアを使用しているかについて調査を進めた。この業務領域については、2003年度WG1の調査と同じ項目となっている。それぞれのシステムについての運用上の問題点について回答を得た。

【質問項目】

  1. システム導入状況
    自社開発、パッケージ導入、ASP利用、導入していない、パッケージ名
  2. システム環境
    汎用機、オフコン、UNIX、LINUX、Windows Server、その他
  3. 保守体制
    自社社員のみ、情報子会社と共同、外部ベンダーに任せる、その他
  4. 運用上の問題点
    社内にわかる人がいない、技術資料がない、開発したベンダーのサポートが弱い、初期コストが高い、維持費が高い、実用までに労力がかかりすぎる、トラブルが多い、運用技術の伝承が困難である、バージョンアップの対応が困難である、運用に労力が掛かりすぎる、操作性が悪い、その他
  5. システム再構築の時期
    ハードウエア保守切れ、SWのサポート切れ、業務とシステムが合わなくなった、トップの経営方針による、その他

2.2 システム再構築の問題点とその対応

[質問項目]

  1. 再構築の費用がかさむ
    コンサルタント費、ハードウエア費、ソフトウエアライセンス費、アドオン費用、アプリケーション開発費
  2. 再構築にかかる期間が長い
    要件定義の期間、フィットギャップ分析の期間、導入から運用までの期間、マスターデータの整備の期間
  3. 再構築の企画立案が難しい
    システム再構築の必要性の分析、投資対効果(コスト削減額の定量化)の評価
  4. 再構築のリスクが高い
    システム移行が難しい、業務とのギャップが大きくなる、稼動時期が遅れる、品質が落ちる
  5. 再構築のための技術的な問題点が多い
    ハードウエアの性能、ネットワークのスピードが遅い、ミドルウエアの選定が困難、アプリケーションソフトウエアの信頼性がよくない
  6. パッケージソフトウエアが業務とフィットしない
    業務の標準化ができていない、業務に合うパッケージがない
  7. ハードウエアとソフトウエアの相性の問題
    ・新ハードウア上でのミドルウエアの組み合わせ検証に時間が掛かる。
    ・新ハードウエア上での既存アプリの検証作業の方法調査、実際の検証作業に時間が掛かる。
  8. 人材の問題
    ・再構築を指揮できる人がいない。
    ・システム担当者が社内からいなくなった。
    ・要員育成(教育)に時間が掛かる。
  9. 業務改革が出来ない
    ・現場の意見が強すぎる。
    ・リーダーシップを発揮して推進する人がいない。
  10. 移行が困難
    ・データの移行が難しい。
    ・マスターデータの整備に労力を要する。
    ・パラレルランの負荷が大きすぎる。
    ・業務の切り替えが難しい。
    ・トレーニングが難しい。
  11. その他の問題点

3. 導入パッケージ

 システム導入状況、システム環境、保守体制、運用上の問題点、システム再構築の時期についてのアンケートを以下の分野について行った。各業務領域での詳細は割愛する。各社が導入しているシステムの現状は以下の通りである。

3.1 全社レベル

 経理・財務、人事、販売管理、特約店・SS情報管理、物流、受注管理、原料調達、資材購買、生産管理、品質管理

3.2 製油所レベル

 製油所経営管理(8領域)、生産管理業務(9領域)、運転支援業務(10領域)、実績管理業務(5領域)、品質管理業務(2領域)、設備管理業務(12領域)

表1 導入パッケージ(本社)

  本社業務領域 導入パッケージ名
1 経理、財務 Oracle EBS(3), SAP(2),ルネサンス, Pro-Active,EXPLANNER, SCAW
2 人事 KAI人事, GUIPACK,EXPLANNER, Company(3),クレオ, SAP, Hi-Per人
3 販売管理 SAP(2)
4 特約店,SS情報管理 BusinessObject
5 物流 SAP
6 受注管理 SAP(2)
7 原料調達 SAP
8 資材購買 SAP(2) , PACER, TRIM
9 生産管理 PIMS, PIROS, ORION
10 品質管理 LAS,IA-LAS, LAB-AID(3), SAP

表2 導入パッケージ(製油所)

  製油所業務領域 導入パッケージ名
1 製油所経営の情報インフラ racleDiscoverer, SymfowareNAVI
2 生産管理業務の情報インフラ  
  全体スケジュール PIMS(7), RPMS
  装置スケジューラ IMPRESS, Exanalp-OM, ORION(2), SCMPL-PR (2)
3 運転支援業務の情報インフラ PI(2), Exaquantum, INFOPLUS21(3), PIシステム, PHD(3)
4 実績管理業務の情報インフラ PI-ProcessBook, SymfowareNAVI, PI
5 品質管理業務の情報インフラ LAS,Lab-aid(4), EXA-BPC, EXA-RQE(2), ProcessInsight(2)
6 設備管理業務の情報インフラ  
  保全管理システム AXIMO(2), PACER(2), eHOZEN, SAP, PLANTIA
  保全DB MAXIMO(2), PACER(2), PLANTIA, A-MIS(3), FEX
  電子文書管理 ImageRunnner2, WWDS,テクノドック,スペースファインダー, VisualFinder,Formtak,PANAPIOS

4. アンケート分析

4.1 既存システムの状況・問題点

4.1.1 業務の標準化
本社では経理、人事といったシステムにおいて自社開発がほとんどなくなり、パッケージが主流になってきている。この傾向は今後の主流になると思われる。
製油所では以下のシステムでパッケージ化が進んでいる。

  1. 生産管理
  2. 品質管理
  3. 設備管理

これらはWindows系が多く、業務の標準化が進んでいると考えられる。保守は開発元ベンダーに任せる傾向がある。

4.1.2 ASPサービス
一部の製油所での実績管理システムを除いて、ASPサービスは導入が進んでいない。今後はこのようなASPの導入が増えてくるものと思われるが、今回の調査では導入事例があまりみられなかった。今後、インフラ系や会社独自のシステムではない分野において、導入されていくのではないかと予想される。

4.1.3 技術伝承
全社レベル、製油所レベルいずれにおいても製油所経営、実績管理業務、設備管理の各業務で技術伝承に関して問題があるという回答が多かった。データの取り出しはパッケージに任せられるが、その評価・分析については属人的なものになっているのではないか。この評価・分析ノウハウの伝承が困難なのではないか。
運用を社員および情報子会社で行っている場合、人員の確保の問題により、技術伝承が問題になってくるのではないか。

4.1.4 システム環境
全社レベルでは、各業務にわたり、いまだ汎用機が残っているが、徐々にWindows Serverの割合が増える傾向にある。
4.2 システム再構築の問題とその対応

4.2.1 再構築の費用
ハードウエアのコストに対する不満は少ないのに対し、アドオン・アプリケーション開発費用やコンサルタント費がかさむのを問題にしている回答が多かった。
コンサルタントについては、他社・他業界の業務の改善事例等のフィードバックやアドバイスを期待している。

4.2.2 再構築にかかる期間
要件分析とそれに伴う分析に労力がかかるのはある程度必然的と考えられる。社外ベンダーのコンサルにアドバイスを求める(業務の標準化)。

4.2.3 再構築の企画立案
投資対効果は必ず問われる問題であり、社内で解決しなければならないのは当然である。最近は、システム導入合理化による人件費削減は難しくなってきている。評価指標を設ける必要があると思われる。

4.2.4 技術的な問題
ハードウエアの性能やミドルウエアとの相性については、ユーザーでは判断が難しくベンダーへ判断を依頼する傾向がある。

4.2.5 人材の問題
人員削減が進み、人材の問題が顕著になってきている。要員の育成にも時間がかかる。業務とシステム両方を分かっている人が少なくなってきている。業務とシステムを理解しリーダーシップをとる人材が必要であるが、その人材不足が問題である。解決策としてはプロジェクト体制を組んで進めていくことが多いようである。

4.2.6 対応部門
再構築を中心的に担当しているのは、情報システム部門やユーザー部門が多い。操業現場に近いシステムについてはユーザー主導が多いのではないか。プロジェクトチームを組んで行う再構築は、部門をまたがったような規模の大きなものが想定される。

4.2.7 外部への委託/期待
社外へ委託するのは開発したベンダーが多い。社外への期待はコンサルティングと技術的なサポートが中心となっている。

4.2.8 バージョンアップへの対応が困難
全社基幹システムになってくると、実際に移行作業やトレーニング、パラレルランなどの負荷が高く、この傾向はますます高まってくるものと考えられる。

5. まとめ

5.1 総括

コスト削減や業務の見直しを行うのが中心的な課題となってきている。各社、システム再構築に際して抱える課題は基本的に同じである。人材に関する問題(技術伝承、再構築の指揮者、要員育成)を挙げる声が多く、2007年問題が具体的な形で現れている。

5.2 活動の反省

  1. アンケート項目の内容検討に時間を取られてしまい、アンケート結果の分析が浅くなってしまった。
  2. 回答し易いように、予め回答を想定しチェックしてもらう形式にしたが、回答を誘導するような形になったのではないか疑問が残る。
  3. 再構築の問題点がどの業務システムか指定がないため、回答にばらつきが出た可能性がある。

5.3 今後の取組み (提言)

2年前にWG1「石油産業における情報インフラの調査」でパッケージ導入に関するアンケート調査を行ったが、今回の調査結果との比較ができれば、トレンドなども把握することが可能になると思われる。
今後も定期的(2〜3年程度)に同じ内容でアンケートを継続実施することで、今回のデータを活かすことができると考える。ASPサービスなどは、さらに導入が進んでいくと考えられる。
最後に、膨大な設問に関してご回答いただいた石油会社の関係者の方々にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

 

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