平成12年度経営情報部会WG2活動成果報告

WG2 製油所経営のあるべき姿と情報システムに備えるべき機能

参加メンバー: 主査:白川義之(ジャパンエナジー),安藤 明(鹿島石油),今元典夫(横河電機),植木和夫(山武産業システム),奈尾廣由(千代田化工建設),前川博幸(コスモ石油)(以上,6名)

*メンバーの所属および下記成果報告書は2001年3月現在のものです。

1. はじめに

 製油所の役務をより効果的にするために多くのシステムが構築されてきており,その中で情報システムの果たした役割は大きいと推察されるが,一方では所期の目的が十分発揮されるには至らなかったり,石油産業の環境変化についていけず,システムパフォーマンス,メンテナンス等欠点を露呈している面も多々あろうと思われる。また,この数年来の経営環境の変化により,製油所においても経営変革が迫られており,新たな製油所情報システム機能が必要となっていることも予測される。
さらに,ITを中心とする技術革新の進展により,従来は投資に合わなかったシステム機能も実現可能となってきている。
このような背景のもとに,石油学会経営情報部会WG2では"製油所経営のあるべき姿と情報システムに備えるべき機能"と題して,現状と今後の展望,さらにあるべき姿を提言すべく活動を実施した。

2. 製油所から見た製油所業務の課題

 活動の一環として,国内30製油所に対して,製油所業務の課題に関するアンケート結果を実施し,29製油所から回答を得た。これらの回答を整理した結果に基づき,そのポイントを述べる。

2.1 生産管理

  1. 主要なポイント
    1)全社最適化との連携
    2)柔軟な生産のためのスケジューリング
  2. その他のポイント
    1)設備ネック
    2)何が最適かわからない
    3)入出荷スケジュール
    4)締め処理

2.2 生産管理

  1. 主要なポイント
    1)安全操業,安全生産を低コスト,省人化
    2)フレキシブル生産
  2. その他のポイント
    1)リアルタイム表示
    2)高度制御

2.3 実績管理

  1. 主要なポイント
    1)タイムリーな計画へのフィードバック
    2)計画自体の精度向上,評価
  2. その他のポイント  
    1)他システムとの連携
    2)アプリケーション作成が困難

2.4 品質管理

  1. 主要なポイント
    1)過剰スペックのない操業
    2)品質管理課内の合理化
  2. その他のポイント  
    1)業務が定型化しており,投資すれば実現できる

2.5 設備管理

  1. 主要なポイント
    1)保全技術の伝承
    2)リスクマネージメント
    3)科学手法の取り入れ

2.6 情報システム管理

  1. 主要なポイント
    1)製油所利益への貢献
    2)システム運用での合理化
    3)総合的なシステム化
  2. その他のポイント  
    1)運用コストの低減
    2)老朽化,メンテナンス打ち切り

3. 製油所経営のあるべき姿と情報システムに備えるべき機能

3.1 あるべき姿

(1)経営制御システムとは
理想的な経営制御システムは以下のようになる。本社では月ベース生産計画を各製油所に指示する。つまり,販売予測に基づく最適生産計画,製油所への最適生産割り振り,最適原油計画(原油計画は,見込みであるがトレーディングもある),最適物流計画等を関係部署に指示する。月末には決算により資金計画を決定する。需給表により日々の全社需給バランスが参照でき,関係部署のクイックアクションが取れる。市況変化による変更にはローリングプランで最適性を維持し,またトラブル発生時には,各製油所の生産計画を最適に変更することができる。
製油所では,本社指示に従いスケジューリングする。日々,計画/実績対比ができ,運転に木目細かくフィードバックする。生産に関する関係部署(主に品質,運転,設備)との協調が取れて,安全で効率的な運営が行なわれる。運転結果は実績データとしてDBに保存し,製油所関係部署,あるいは本社関係部署にフィードバックする。市況(需要,為替)変化による本社指示の計画変更への即応あるいは外乱(装置トラブル,入出荷変更,トレーディング)に対しては,スムーズな対応ができる。

図1にあるように,良い経営制御システムとは,本社を含めたメジャーフィードバックループ,製油所でのマイナーフィードバックループがスムーズに回転している状態である。計画変更にも柔軟に追従し,外乱にも短時間で静定する。

(2)経営制御システムの課題

  1. 本社生産計画(目標値)精度の改善
    本社生産計画精度は販売予測精度とともに経営収支に大きく影響する。製油所から定期的に生産計画前提条件(各装置の収率,制約値他)の精度が良くないと物流ロスを起こす。
  2. フィードバックループが繋がっていない
    製油所内でのフィードバックでは,データ加工に人手がかかる(特にルーチンで日々運用担当者でない場合,欲しいデータがどこにあるのか,あるいは,別のDBとの結合ができない,データ精度が悪くモデルが信頼できない,加工結果があるが,良いか悪いか判断基準が無いなどにより,即アクションに繋げない。つまりフィードバックループが切れた状態となる。
  3. 追従性が不十分
    自動化,高度制御導入により改善されてきているが,運転条件変更には運転部門,品質管理部門にとっては手間のかかる仕事である。

3.2 対応策

(1)本社へ高精度データ提供
一般に生産計画前提条件は期毎に製油所から本社に提出するようであるが,精度向上による,本社最適生産計画に貢献する。

  1. 収率モデルは運転条件を入力等木目細かさ
  2. 実績データに基づくモデリングも検討
  3. 自動的に実績を補正できるシステム化
  4. データリコンシレーション導入

(2)本社へのフィードバックループを構築
本社へのフィードバックではデータの整合性が取れないと役に立たない。本社要求課題は決算の早期化,最適な物流計画(販売予測,原油共同購入計画を含む)のための製油所からのタイムリーな情報提供であり,それらの実現のためには下記事項を実施する必要がある。

  1. 決算早期化
  2. フレキシブルな生産計画対応

(3)製油所内情報フィードバックループの構築と効果的運用
システムのみならず,標準化,判断基準といった人,組織,ポリシー等に関わる事項も複雑に絡んでおり,並行して解決する必要がある。

  1. 標準化,判断基準の明確化
    システム設計に並行して,システム出力の評価法の判断基準を決める。
  2. データ精度の信頼性向上
    経験則であるが,性状推定,収率推定,最適制御に利用する装置モデルなどの理論モデルの信頼性は,メンテナンスまで含めて考えるとキープする事は得策でなく,ニューロ等,実績データに基づくアプローチが現実的ではないか。
  3. 人の介在をなくする
    パソコンの普及で書棚のファイルの多くは電子化されたが,文書作成,技術検討等には転記,手入力が多く残っている。
  4. DB設計
    従来DBはパッケージを導入すれば何でもできるとして,運用には力を注がなかったきらいがある。DBのリンクが共通のキーワードとして上がっており,業務運用を描いた設計が重要である。

(4)外乱の除去と即応
ある製油所でのトラブルは他製油所の生産計画,物流計画他本社各部に多大なる影響を与える。如何に他製油所に与える影響を小さくし,早く安定させるかである。

4. おわりに

 WG2では"製油所経営のあるべき姿と情報システムに備えるべき機能"の題材をかかげ,前半の半年は主に石油各社へのアンケートで製油所での課題を掴み,後半は主に某社でのERP/SCM設計事例により,本社から見た製油所への要求を加味し,製油所/本社要求の両方を満足するものが今後のあるべき姿という視点で研究をしてきた。
あらゆる情報も役に立てて(フィードバック)価値があるわけで,アンケート結果にはその不満が溢れているのが読み取れる。その元凶の一つがDBにある。今回の研究ではそれを再確認した所までであり,アプリケーションを考慮したDB設計の考え方は来年度の課題として提案したい。
今回の研究は近い将来なるであろうも含まれているものもが,あくまでも現状の課題解決策である。我々が今後考えるべきことは,リアルタイム経営,業務革新であり,革新的なニーズが求められる時代がすでに来つつあることである。例えば,業務のスピード/管理精度は数倍〜数十倍になり,分業体制/複数セッションは1グループ又は1人程度になり,業務・承認ルート等のルールは旧ルールの破壊(情報伝達ルート等の変革)と変化することが予想される。当然,それらに対する情報システムへの要求が起こるわけで,それを想定した設計を準備しておかねばならない。アプリケーションを考慮しないシステムは,20年前から言われつづけた"情報は蓄積されているが利用されていない"と言う非難を再び浴びることになるであろう。DBパッケージを入れたら何とかなるでは駄目なのである。

 

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