技術進歩賞

シクロペンチルメチルエーテル製造プロセスの開発

 

小越 直人 殿(日本ゼオン(株)総合開発センター 主任研究員)
三木 英了 殿(日本ゼオン(株)総合開発センター チームリーダー)

 本技術は,シクロペンテンにメタノールを付加させてシクロペンチルメチルエーテルを製造するプロセスの開発に関するものである。シクロペンチルメチルエーテルは水との分離や水からの回収が容易な疎水性エーテル溶剤であり,また蒸発潜熱が小さい,過酸化物を生成しづらいといった省エネ・安全性にも優れている。商業規模でのシクロペンチルメチルエーテル製造プロセスは,本プロセス以外には例を見ない独自性の高い製造プロセスである。
 本プロセスは,大きく反応セクション,水洗・油水分離セクション,精製セクションの3セクションから構成され,独創性の高い開発技術が盛り込まれている。反応セクションでは,陽イオン交換樹脂を触媒に用いた固定床多管式連続反応器によってシクロペンテンとメタノールからシクロペンチルメチルエーテルが気相中で合成される。陽イオン交換樹脂はエステル化反応や水和反応などの触媒として幅広く使用されているがいずれも液相反応であり,本技術のように気相反応の触媒として実用化された例はない。固定床気相連続反応を実現するために本技術開発では,触媒である陽イオン交換樹脂の反応器への充填方法として,湿潤状態での充填,触媒に含まれる水のメタノールによる置換,不活性ガスによる触媒の乾燥,の工程からなる比較的平易な手順の組合せによる触媒充填法を開発した。また,触媒劣化要因を詳細に検討し,特定のジオレフィンによって触媒劣化が促進されることを突き止め,原料中のジオレフィン濃度を厳密に管理することにより触媒の長寿命化を達成した。さらに,反応器内での発熱挙動の詳細解析と効率的除熱・温度制御を達成する反応器の設計によって,商業生産プロセスとして確立した。水洗・油水分離セクションでは,製品と未反応原料との混合物をアルカリ性水溶液で洗浄して油相-水相からなる2液相を形成し,水相への未反応原料の効率的な抽出と油相の蒸留精製によって原料の高効率回収と高品質な製品製造の両方を可能にした。製品と未反応原料は複雑な共沸系を構成するため,そのまま蒸留したのでは製品の要求品質を満たせなかったが,アルカリ性水溶液を使った洗浄工程によって,高品質な製品の製造が可能となった。またこの方法では,触媒から脱離した硫酸イオンが残留水分と反応して生成する強酸性水も中和除去できるため,蒸留塔等の後段設備の腐食も防止できる。
 本製造プロセスは2005年に商業運転が開始され,これまで順調に稼働している。陽イオン交換樹脂を触媒に用いた石油・石油化学製品製造プロセスはメチルターシャリーブチルエーテル製造プロセスなど世界中で数多くの実績があるが,設備や制御が複雑であることや,触媒からの硫酸イオンの流出など問題を抱えている。本技術は,それら既存の製造プロセスに対して有益な知見を与え,また新規プロセス開発への展開が期待される。
 よって,本業績は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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